これまで取得してきた中央アルプス北部地域に生息するツキノワグマ30頭以上のGPS測位データを用いることができるようになった。国内でも有数のそれらのツキノワグマの利用地点データから、ツキノワグマが人里周辺で、どのように人との棲み分け行動をしているか精査してきた。一方で、地域によって異なる人里の景観構造を定量的に示す方法も検討してきた。 研究期間最終年では、ツキノワグマによる人里利用が最も多い夏季に、人里周辺での生息地選択行動が景観や時間によってどのように異なるか、またそれらの行動が地域によってどのように変化するかについて、GPSデータとGIS解析によって検討した。そこから、人里を構成する居住地・道路・農地・二次林などの人為景観ごとに変化するリスク認知や、人との遭遇回避などといった、ツキノワグマによる人との棲み分け行動をある程度特定化することができた。さらに地域ごとに異なる景観構造を定量的に示すモデルを用いて、ツキノワグマの生息地選択の地域間比較も可能となった。それらの結果から森林管理や耕作放棄地などの土地利用の変化が、クマの出没パターンの地域間の違いを決定していることが示唆された。 最後に、クマ類が、道路・林地・農地・河畔林などの人里を構成する人為景観に対する反応を概観するため、国内外の既往研究のレビューを行い、本研究の成果を事例として加えた論文によって、野生動物保護管理における生息地管理の重要な役割を示すことができた。
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