これまで,湖沼における過去の水生植物の存在を把握するためには,湖底堆積物中に存在する種子,胞子,葉や茎などの植物遺骸を採取し,観察することで,その存在や変遷過程を解明してきた.しかし,この手法では堆積物中に顕微鏡で観察できる状態で残っているものだけしか,観察することができない.そこで,本研究では近年,魚類を対象に頻繁に用いられている環境DNAを,かつて宍道湖における優占種であったと考えられる車軸藻類に適用し,その変遷を明らかにすることを目的とした.環境DNAは水中,堆積物中に存在する生物から排出されたDNAを採取・分析するため,植物体が残っていなくても対象生物の在・不在を決定できる強力なツールである. 本年度はこれまで堆積物からDNAを抽出するために用いたエタノール沈殿法,市販のDNA抽出キットのPower Soil Proでの抽出方法に加え,Sakata et al.(2021)の用いた方法を新たに試し,堆積物からのDNA抽出を行い,車軸藻類のDNAの検出を試みた.Sakata et al.(2021)の方法を用いてDNAを抽出し,2018年に作成したシャジクモ(Chara braunii)のプライマー・プローブを用いてPCRを行なったところ,湖心部付近の堆積物の湖底面から30~34cm下のサンプルからシャジクモのDNAの増幅を確認した.この増幅が確認された堆積物サンプルに対して,鉛210とセシウム137を測定し,CICモデルを用いて年代を求めたところ,1914~1932年頃の堆積物であることが分かった. 本研究の結果は,過去にどんな車軸藻類が存在していたか,文献情報が存在せず,また卵胞子を堆積物から採取しなくても環境DNAを用いることで過去の生息状況を明らかにすることができることを示した.
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