本研究は、地球上に広く分布しながらも開発から取り残されてきた放牧地における、土地の私有化・囲い込みや保護区の設置、土地利用の変化等によって進展する「景観の分断化」の実態を解明することを目的としている。景観の分断化が進む放牧地における牧畜民の放牧システム、そして放牧を支える基盤である自然環境の変化について実証的に分析することを通して、景観の分断化によって変化している放牧地における「人ー家畜ー自然環境の関係性」を総合的に解明していく。2021年度は、2020年度に引き続き現地調査を実施することができなかったため、主として文献のレビューを実施するとともに、対象地域の衛星画像解析を実施した。また、本来の調査対象地域におけるフィールドワークが実施できなかったため、比較対象地域として海外他地域、国内における自然環境の変化とその応答に着目した研究を実施した。 これまでの既存研究のレビューにより、グローバルな気候変化に起因する放牧地周辺の環境変化にともなって、ますます自然資源利用が不確実性を増していることが多くの研究で指摘されている。それにともなって、景観の多様性(不均一性)がますます重要になってきていると示唆される。一方で、既存の放牧地の景観変容や土地利用形態の変化についてはまだ十分に明らかになっていないといえる。そのため、調査対象地域で発生している現象に関して、NDVIをもとに景観変化を捉えるための試みを衛星画像解析によって実施した(投稿準備中)。景観の変化は、結果的に家畜のさまざまな採食資源へのアクセスを減少させ、放牧地に依存して暮らす牧畜民に負の影響をもたらしていると示唆されるため、景観の変化と放牧との関係についてさらに知見を増やしていく必要がある。そのため、本研究で得られた成果を発表するのみにとどまらず、今後も継続的・発展的に本研究のテーマを追求していく必要がある。
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