研究実績の概要 |
本研究の目的は、福岡市と筑豊地域を対象に、介護福祉士比率に地域差があることとそれを生みだす要因を、両地域の特別養護老人ホーム(以下、特養)管理者へのインタビューとそこで働く介護福祉士へのインタビューやアンケートを行うことで解明することにある。平成30年度は都道府県別、福岡県市区町村別に介護サービス労働力不足の地域差と福岡市特養で働く介護福祉士の就業特性を把握した。平成31年度は筑豊地域の特養で働く介護福祉士の職業経歴と就業特性を検討した。当初は飯塚市のみを研究対象地域としていたが、入手できるデータ量が少なくなることが予想されたため、飯塚市を含む筑豊地域を研究対象地域とした。 平成30年度調査では、次の2点が解明された。第1に高卒進学者1,000人あたりの介護福祉士養成学校入学定員が多い都道府県ほど特養介護職員に占める介護福祉士比率は高い傾向にあり、両者の間には正の相関関係がみられた(相関係数0.66)。第2に「既婚(子あり)」「既婚(夫婦のみ)」で月給20万円以上の者の比率が高く、通勤時間15分以上の者の比率は「未婚(親と同居)」「既婚(子あり)」で高い等、婚姻関係・居住形態等の個人属性により介護福祉士の就業特性は異なることが判明した。ただ、インタビューから、これらの就業特性は個人属性だけでなく事業所規模や経営方針、養成学校の立地特性等、複数の要素が関連して生じていることも明らかになった。 平成31年度調査では、次の2点が解明された。第1に、筑豊地域は完全失業率や生活保護率、シングルマザー世帯率が県内他地域と比べて高く労働市場が劣悪であった。それにもかかわらず、既婚男性やシングルマザーがこの地域の介護サービス産業の中心的な担い手となっていた。第2に、第1の背景にはインフォーマルなネットワークが存在し、それが既婚男性やシングルマザーの就職と生活を安定したものにしていた。
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