本研究課題では、日本国内の鉱工業都市へ労働力として移入し定着してきた国民国家の周縁地域からの都市移住者を対象に、脱工業化社会においていかに彼らが都市マイノリティ層としての同郷者コミュニティや人的ネットワークの機能変容を経験してきたのか、文化・社会地理学的な視点での分析を行なった。具体的には日本「本土」の鉱工業都市で生活する沖縄・奄美出身者によって組織された同郷団体の諸実践を対象として、参与観察や聞き取り調査といった質的調査のほか、同郷団体刊行物や同郷者メディア等の資料を分析して各同郷団体の機能変容や表出されるアイデンティフィケーションの動態を明らかにした。 平成30年度から令和元年にかけては主に大牟田市、神戸市、川崎市、東京都にて開催された奄美出身者の同郷団体主催の行事において参与観察を実施するとともに、神戸市立図書館や鹿児島県与論町立図書館など関連する各地の図書館にて同郷団体関連資料の渉猟を行ない、研究対象の諸同郷団体の活動内容や設立経緯などの分析と考察を進めた。令和2年度は川崎沖縄県人会への聞き取り調査や資料調査等を実施したものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響で当初計画していた調査・研究が困難になったため、令和3年度まで研究期間を延長した。 最終年度にあたる令和3年度においては、引き続き同郷者集団研究に関する既往研究の整理を進めるとともに、都市コミュニティや同郷者ネットワークの機能に関する理論的枠組みの再検討を行った。あわせて、これまでにフィールド調査や資料調査を通じて得たデータの分析を進め、産業構造の変化に伴う同郷者集団の活動内容や機能の変容過程の解明を行った。上記の研究成果の一部については、雑誌論文(『日本労働研究雑誌』第63巻第7号)等において発表した。
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