研究実績の概要 |
本研究は、フランス三大都市における都市公共交通の整備と都市化の関連性を検討する。日本の歴史地理学の研究動向とは異なり、フランスでは都市化における重要性にもかかわらず、都市公共交通に関する本格的な歴史研究は少ない。マルセイユの研究を行ってきた申請者は、その研究成果をもとに、三大都市の歴史における都市公共交通の社会的意義を比較検証する。大部分の住民が自家用車を所有していなかった1870年代から1930年代までを考察することで、都市公共交通の本来の役割を浮き彫りにするのが本研究の目的である。研究方法としては、歴史地理学と人口学の研究を基礎としながら、都市政策史や経営史、社会史の方法を援用し、総合的に都市化の過程と公共交通網拡大の関連性を分析する。そして、現代に関する都市地理学における比較研究の基盤を作るものである。 最終年度はリヨンで史料調査を夏期休暇中に実施する予定であったが、コロナウィルス感染拡大の影響で実施できなかった。そのため、既存のリヨンに関する研究文献や、以前、入手していた史料を活用し研究を行った。リヨンの路面電車路線網は、広大な面積を有するマルセイユと比較して、大部分の路線が人口密集地域に敷かれ経営に好都合で、経営の合理化にも成功していた。こうしたリヨンの都市化においても、マルセイユで見受けられたように、路面電車敷設の問題を契機に住民の組織化が特に郊外で進行したのである。研究成果としては、マルセイユの内容が中心となるが、パリやリヨンの内容も盛り込んだ以下となる。Histoire, economie et societe誌、Tramway deux sous ; naissance d'une politique du transport public urbain : une tentative du premier maire socialiste de Marseille, Simeon Flaissieres (1892-1902)(近刊)。
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