2022年度前半には、本科研の締めくくりとなる研究成果発表を行うために国際学会の準備をした。同年9月から10月までエチオピアを訪問して研究発表を行った。発表では、本科研のテーマとして取り組んだ儀礼実践の一つである、地域的な参詣儀礼についてオロミア州の事例に基づいて議論した。同学会での参加者間の議論は翌年のワークショップに繋がり、宗教儀礼の理解を深めることができた。2023年1月の渡航では、アディスアベバ、アダマに滞在した。情勢不安が続くオロミア州等について、宗教施設管理者らに聞き込み調査を行い、民族政治、宗教実践等の現状を調査した。
研究期間全体のおもな成果は以下2点である。1)2000年代後半エチオピアは経済成長を遂げたが、農村部では、国内外の資本による土地収奪が急速に進んだ。調査地では経済活動を巡ってコミュニティの成員同士の関係性が複雑化しており、同時にそこに見られる異なる民族帰属をもつ人々の関係性も緊張化していた。このような社会状況で、当地で定期的に実施されている宗教集会が、コミュニティの成員同士のみならず、民族的他者同士のコミュニケーションの経路となっていることが明らかとなった。2)オロミア州東ショア地区で盛んにみられる、イスラム教に由来するハドラ集会には多くのキリスト教徒が参加している。その儀礼参加者が実践する地域的な参詣儀礼で人々が経験するランドスケープの聖性、及びその構築性について理解を深めた。
当初は海外渡航が制限される事態になることは予想できなかった。そのなかでも、2019年3月、および同年12月から2020年1月まで、そして2023年1月に短期間ながら現地調査を行うことで研究を進められた。国内外の学会(日本アフリカ学会、日本文化人類学会、国際エチオピア学会)、国際シンポジウム(東京外国語大学)で議論できたことも当該研究にとって意義深いことであった。
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