研究課題/領域番号 |
18K12594
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
神野 知恵 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 機関研究員 (20780357)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 門付け / 伊勢大神楽 / 農楽 / 民俗芸能 |
研究実績の概要 |
本研究は近現代の日韓における門付け芸能の変遷を主題としている。今年度は、主に日本の関西各地で活動する伊勢大神楽の調査を行った。伊勢大神楽講社の四社中を対象とし、調査地域は大阪府、京都府、滋賀県、福井県、香川県、岡山県、兵庫県、三重県各地に及んだ。各地域において大神楽が歓待され、年中行事のなかで重要な役割を果たしている場面を見ることができたが、その存続を楽観視できない部分も多かった。とくに少子高齢化による回檀地の減少や、神楽師の人員確保に深刻な問題を抱えていた。本研究では比較を行うため、東北地方を中心に他の芸能団体についても調査を行った。八戸三社大祭における神楽などの門打ち、盛岡市黒川さんさの門付け復元行事、大船渡市越喜来の浦浜念仏剣舞による供養行事、吉浜の権現様巡行、宮古市黒森神楽の巡行を対象とした。また、韓国でも農楽が家々を廻る「コルグン」の行事を済州道楸子島で見る事ができた。演じる人びとはいずれも専業者ではないが、家々で芸能を奉納する代わりに報酬を得る門付けの行事においては、様々な点において共通性が見られた。 これらの調査の結果、家々を廻る儀礼は日韓で現在も続けられているが、その理由は家族の健康や家業の繁栄を願う信仰心による部分が大きいことが改めて明らかになった。また、先行研究では行事の演じ手を専業的な芸能者と村人に二分して考えてきたが、その相互関係や、中間的な存在も重要であることがわかった。 研究成果は、申請者が所属する国立民族学博物館での研究会や、韓国木浦大学島嶼文化研究所の国際シンポジウムにて発表し、その内容が論文集『島と海の民俗研究、その行路と展望』として出版された(韓国:民俗苑、2019)。その他、国立民族学博物館『月刊みんぱく』(2018年10月号)での門付け芸能特集、公益社団法人全日本郷土芸能協会会報での連載記事においても調査の結果を一般公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の予定であった伊勢大神楽の調査や、国内の類似事例の調査は充分に行えたと考えている。ただし、今後はよりテーマの焦点を絞り、それに沿った重点的調査を行うことを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
門付け芸能の「近現代変化」に注目し、以下の焦点に絞った調査を行う。 伊勢大神楽については、①伊勢大神楽が地域住民と築いてきた密接な関係がどのように変化してきたのかについて知るため、各組が各地域で宿泊や食事の提供を受けた「神楽宿」の調査を行う。可能な限り、神楽師たちを泊めていた家へのインタビューを行う。②伊勢大神楽に影響を受けた地域の獅子舞の現状や大神楽との関係性を調査する。③伊勢大神楽講社の社中のうち廃業した組が回檀していた地域を整理し、廃業の原因とその後の回檀地の状況を調査する。現在その地域を廻っている伊勢大神楽講社外の自称団体の実態を調査する。④西日本各地の市町村誌を中心に伊勢大神楽の文献を調査し、大神楽と地域文化の関係性の近現代変化について調査する。 また、日韓のその他の門付け芸能については、伊勢大神楽と同様、専業の芸能者として活動してきた「阿波箱木偶まわし」について調査する。既にこれまで当事者たちが精力的に行ってきた研究成果を参照しながら、現状を調査する。また、東北地方など関東に伝わる大神楽系の獅子神楽と、権現舞系神楽の現状を調査する。韓国の芸能については、過去の専業芸能集団の活動の実態に関する文献研究を強化する。また、過去にそうした人々が訪れたと言われる痕跡を探る。 成果発表の方法としては、国際シンポジウムでの学術発表を行う。上半期では5月に韓国晋州市での発表、7月にICTMタイ大会発表を予定している。また、国内で共同研究会を開いて他の事例との比較検討を行い、その成果を国内学会で発表する予定である。
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