研究課題/領域番号 |
18K12594
|
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
神野 知恵 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 機関研究員 (20780357)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 門付け / 家廻り / 伊勢大神楽 / 農楽 / 民俗芸能 |
研究実績の概要 |
今年度はまず、巡行する芸能者にとって不可欠な宿泊や飲食を提供する「ヤド」に注目し、西日本で獅子舞と曲芸による回檀を続ける伊勢大神楽を主な研究対象として調査を行った。彼らの場合、以前は民家での宿泊が主であったが、家族構成の変化や経済的負担により旅館やホテル、持ち家、自宅通勤に代わっており、過去5年で民家での宿泊が無くなったことが明らかになった。一方、食事の提供に関しては、現地調査と文献調査を通じて、減少傾向にはあるが現在でも地域の公民館や個人宅が担う場合が多いことがわかった。阿波の木偶廻しや、東北の廻り神楽などの芸能のヤドにも同様の傾向が見られた。過去の宿泊や回檀の様式に関しては、森本忠太夫社中の昭和初期の出納帳を通じて分析研究を行い、国立民族学博物館より出版を予定している。次に伊勢大神楽の芸能の地方伝播を重要なテーマと考え、そのなかで笛の役割に注目した。神楽師が地域の人々に笛を教えたり、譲渡することよって芸の伝播が促されている場合が見られ、専業芸能者と地元住民の関係構築に楽器というモノが重要な役割を果たしていることが明らかになった。 韓国においては、門付け形式の活動を行っていた農楽の演奏者たちが、1920年代に興行公演を行うようになり、1960年代に舞台芸能化していった過程について、演奏者イブサンへのインタビュー調査を行った。 今年度はこれらの研究成果を、国内学会および講演で5回、韓国学会で3回、国際大会1回の発表によって報告した。とくに7月に行われた国際伝統音楽学会(ICTM)では、伊勢大神楽の映像上映を行い、各国の参加者から多様な反応を得た。研究成果の一部は共著『アジアを学ぼうブックレットシリーズ 音楽を研究する愉しみ』(令和1年10月、風響社)でも紹介した。また、12月に国立民族学博物館で伊勢大神楽山本源太夫社中の公演を行うことにより研究成果の社会還元も行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた伊勢大神楽の調査や、国内調査は充分に行えた。韓国については、主な調査対象とする農楽の最も重要な活動時期であった2月に新型コロナウイルス感染防止の観点から渡航を断念したため、現地調査を充分に行うことが難しく、文献調査が中心となった。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度上半期は広範囲での現地調査が難しいため、文献調査を重点的に行う。これまでも部分的には行ってきたが、門付けや家廻り芸能に関連する文献資料の再整理を試みる。そのうえで、「門付け」という用語の再検討を行う。各芸能者や団体が、家々を廻る巡行活動を何と呼んでいるか、また「門付け」という用語に対して持っている違和感やイメージを整理することによって、家を廻る芸能の実像と、「門付け」という名称が指す範囲の重なりやズレを明らかにする。 個別の芸能の研究としては、伊勢大神楽については以下のテーマに焦点を当てる。第一に、昨年度から引き続き、伊勢大神楽に宿泊や食事を提供する「ヤド」の戦前・戦後での変化についての研究、伊勢大神楽講社の廃業した社中の廃業時期と理由、回檀地の分布、その後の回檀先の状況、伊勢大神楽から伝習を受けたり影響を受けた地域の獅子舞についての研究を行う。また、戦後に県・国からの無形文化財指定を受ける前後の活動の変化についての聞き取り調査を行う。これらを通じて、近現代に伊勢大神楽が経験した変化についての研究をまとめる。また、こうした近現代での変化を、東北の廻り神楽や阿波の木偶廻し、その他の「門付け芸能」と呼ばれる芸能と比較して研究する。 韓国に関しては、芸能者のインタビュー記録や、朝鮮総督府などの発行による植民地期の資料、新聞記事を再度調査し、家廻り行事や巡行の記録を分析する文献調査を重点的に行う。 研究成果は、令和2年度中に大阪大学出版会から共編著書の出版を予定している。また、国内では東洋音楽学会(11月)などでの研究発表を申請中である。他にも、国立民族学博物館ビデオテーク(令和2年度制作)および、映像民族誌作品(令和2年度取材、3年度制作)のなかで、研究成果の一部を紹介する予定である。
|