研究課題/領域番号 |
18K12594
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
神野 知恵 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 特任助教 (20780357)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 門付け / 家廻り / 伊勢大神楽 / 農楽 / 民俗芸能 |
研究実績の概要 |
今年度はコロナ禍により海外・国内ともに調査が困難であった。しかし専業芸能者である伊勢大神楽は西日本各地で巡行を続けていたため、その調査を重点的に行った。現地に行けない期間は、神楽師に電話等を通じてインタビューを行い、7月以降は岡山県、香川県、大阪府等で調査を実施した。疫病の流行という非常事態のなか、厄祓いの門付け芸能が現代人にどのように受容もしくは拒否されたのか、どのような意味を持つようになったのかという実証的研究につながった。神楽師や報告者の予測に反して、地域全体で伊勢大神楽の訪問を断るケースはほとんど見られなかった。家々での厄祓いは、個人と伊勢大神楽との約束によって成り立っているものであるため、自治会がこれを阻止することは難しいという構造が明らかになった。また地域住民からは、毎年迎えてきた継続性を大事にする気持ちや、厄祓いの神事であるため断らない、断れないという心情を聞き取ることができた。一方、神社等で村人を集めて獅子舞や曲芸を披露する「総舞」は自治会の判断で中止になる傾向が強く見られた。伊勢大神楽はこれまで総舞と家々での悪魔祓いの双方によってその勢力を保ってきたが、地域側の経済的理由や他の娯楽の台頭などにより総舞はこの30年ほどで減少傾向にあった。今後コロナの影響でさらに変化することが予測されるため、引き続き注視していく。また、継続課題として、伊勢大神楽と地域の祭礼文化との関係(獅子舞の伝播や、地域祭礼への直接的・間接的影響)についての文献調査を、滋賀県、兵庫県、大阪府の市町村史誌を中心に実施した。また、国立民族学博物館に神楽師を招へいして、彼らが使用する道具類についての詳細な調査を行った。 これらの成果の一部は、東洋音楽学会や民俗芸能学会(いずれもオンライン大会)にて口頭発表を行ったほか、国立民族学博物館において制作したビデオテーク(短編映像作品)の内容に反映された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
伊勢大神楽を対象とした国内調査は、コロナ禍の影響を受けながらも部分的に行うことができた。比較対象である国内の他の芸能や、韓国の農楽については、現地調査・文献調査ともに遂行が非常に難しい状況であった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、以下の焦点に絞って調査成果の整理および研究の総括を行う。 昨年度に引き続き、日本の門付けや家廻り芸能に関連する文献資料の整理を行い、専業芸能者による門付けや村人による家廻りの芸能のそれぞれが近現代においてどのように衰退もしくは変化しながら継承されてきたかについて見解をまとめる。文献整理に加え、各芸能の関係者にオンラインでの補足的な聞き取り調査を行い、そこで得られた知見をふまえ、令和2年度から準備を進めてきた大阪大学出版会からの共著書籍の刊行を目指す。 伊勢大神楽については昨年度から引き続き、神楽師に宿泊や食事を提供する「ヤド」の戦前・戦後での変化についての研究、伊勢大神楽講社の廃業した社中の廃業時期と理由、回檀地の分布、その後の回檀先の状況、伊勢大神楽から伝習を受けたり影響を受けた地域の獅子舞についての研究の調査成果を整理し、研究誌に論文を投稿する。 韓国の家廻り芸能に関しては、これまでの現地調査および文献調査をふまえて、現地の研究者とオンラインで意見交換会を開催し、次の研究課題に発展させることとする。 本研究の成果の一部は、東洋音楽学会(10月)などにおいて発表を検討中である。伊勢大神楽の調査研究の成果の一部は、今年度制作を行う国立民族学博物館にて映像民族誌作品に反映される予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、年度中に予定していた調査を実施することが出来ず、次年度に繰り越して実施することにしたため。
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