最終年度の本年は、これまでに引き続き、伊勢大神楽の近現代での変遷について整理・検討するために回檀地域のフィールド調査(滋賀県下での山本源太夫社中回檀調査、福井県若狭地域での松井嘉太夫社中の影響の調査など)、市町村誌などの文献調査(とくに地域のわらべうたへの影響に注目)をおこない、それぞれに有用な資料や地域の方々の意見の収集を行えた。伊勢大神楽の影響を受けた地域の獅子舞調査を福井県で行うこともできた。また、国内では伊勢大神楽のほかに、今も徳島県での家廻りの活動をしている阿波木偶箱廻し保存会に対する調査を、愛媛県の伊吹島で行った。これらの調査を通じて、門付け芸能の近現代の変遷を把握するためには、演者側の問題と、彼らを受け入れる回檀地域側の問題の二つの面から見なければならず、その際最も重要な問題点に、演者(とくに親方、太夫)の継承、太夫以外の従業員(子方)の出自の変化、偽の団体や類似団体の台頭とそれらへの対応、文化財化などの点があるということがわかった。これらについては現在、大阪大学出版会からの単行本の出版を準備している。 また本年は韓国でも楸子島、蘆花島、慶尚道英陽郡等での門付けの農楽の調査を行ったり、門付け芸能の近現代の変遷に関してイソンス氏を日本に招へいして共同研究会開催することができた。また、日本民俗学会年次大会(於・成城大学)ではパネルセッション「交じりあう芸能世界」(代表・松岡薫)を行い、申請者は韓国の門付け農楽が移動式劇場の公演農楽に変化していく様子について発表を行い、一部本研究の発表の成果も含まれた。これについても、今後共同での研究プロジェクトを立ち上げていく予定である。
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