研究課題/領域番号 |
18K12595
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
田村 うらら 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (10580350)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遊牧民 / ユルック / トルコ / 経済人類学 / 物質文化研究 / 定住化 |
研究実績の概要 |
本研究は、「遊動」する「牧畜民」のみをユルックとする本質主義的な遊牧民研究を相対化し、現代トルコにおけるユルックの多層的な姿を明らかにすることを目的とする。 初年度にあたる本年度は、7月下旬から8月初旬にトルコ中南部域の高原地帯において現地調査を行ない、未だ接触のなかった「遊動」型のユルックの所在を探索しながら、「半遊動」「移牧」「半移牧」型のユルックの事例調査を積み重ねた。具体的には、中南部コンヤ・カラマン県、ウスパルタ県の高原地帯で夏営するユルック9世帯およびウスパルタ県・ブルドゥル県に定住するユルック9世帯の聞き取り・参与観察調査を行なった。さらに、3月下旬には、ウスパルタ県で夏営する移牧者たちの冬営地を訪ね、年間を通した彼らの生活実態や若年世代の新たな生業志向の把握に務めた。 その結果、十年~数十年単位の長期的には遊動から移牧、移牧から定住へという方向に確実に変化しているものの、直近数年のタイムスパンにおいては必ずしも一方向的変化ではないことが明らかになった。例えば新規に移牧型牧畜を始める元都市民なども現れていることがわかった。また若年世代の「遊動する遊牧民」も僅かながら存在しており、定住家屋を持たずに移動する人々の今の生活実態とユルック意識について聞き取りと観察をもとに記録することができた。さらに、高原地帯を比較的広範に移動しながら調査を行なったことで、ユルックそれぞれの類型の地理的分布の概要を把握することができたのも、初年度における重要な成果である。 また資料収集の点では、現地においてトルコ国内におけるユルック研究の最近の成果(出版物等)を収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる本年度は、トルコの遊牧民ユルックの多層性を具体的に明らかにするために、「遊動-半遊動-移牧-半移牧-定住」のそれぞれの位相にあたる調査対象者・対象地の選定と予備的調査、および基礎資料収集と精査を目標としていた。具体的な成果については、初年度であるため上記「研究実績の概要」に同じである。 本務との兼ね合いが難しく調査期間自体は短かったものの、レンタカーを利用して効率的に周りながら夏季と春季に2度調査が実現したことで、移牧者たちの夏営・冬営の両方の生活実態を把握できたこと、調査対象範囲内においてさまざまな型のユルックの地理的分布がおおまかに掴めたことは期待以上の成果であった。他方で収集資料の収集と精査は、成果をまとめるほどにはまだ十分に進んでいるとは言えず、翌年度以降より精力的に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初計画に従い、初年度に選定した調査対象に対して、以下のような具体的なデータ収集と分析を進める。 特に、1.所有するモノとその変化にまつわる調査(世代間・時代・場所と居住空間)、2.生業と人生をめぐるさまざまな局面での選択についての調査、3.生活・生業上のネットワークと変化の分析(経済関係・地縁関係・親族関係等)に着目してゆく。 1については、博士論文に関わる調査の一部を踏襲し、モノからヒトの社会を投射するモノ研究の視座から、生活アイテムの変化を所有物悉皆調査やトルコで広く慣習化している嫁入り道具(ceyiz)の世代間調査を通して明らかにする。2と3については、経済人類学的視点から、生活設計・生活運営上の各局面での人々のネットワーキング行動と選択を直接観察・聞き取りを通して分析する。 また、上記のミクロな分析と並行しながら、ユルックを取り巻く変化に影響をおよぼしている現代トルコの社会経済状況・法制度、また移動性をもつユルック・定住ユルックあるいは「観念としてのユルック」との関係性など、よりマクロな視点でも今後検証を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本務との兼ね合いにより、当初予定していたほどの期間、現地調査を実施することができなかったため、若干の残額が生じた。次年度に繰り越された分は、次年度の調査を当初予定よりも長めに実施することを計画している。
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