研究課題/領域番号 |
18K12595
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
田村 うらら 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (10580350)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遊牧民 / ユルック / トルコ / 公共化 / 文化復興 / 文化祭典 / アイデンティティ / 民族文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、「遊動」する「牧畜民」のみをユルックとする本質主義的なトルコ遊牧民研究を相対化し、現代トルコ共和国におけるユルックの多層的な姿を明らかにすることを目的とするものである。 3年目にあたる2020年度は、新型コロナウイルスの世界的感染拡大による渡航制限が続き、トルコ共和国での現地調査を基盤とした本研究は、大幅な計画変更を余儀なくされた。現地調査が進められない代わりに、過年度までに収集したデータや資料を精査しつつ、学会発表や論文出版などの形での成果発表に注力した。具体的には、5月に国際文化人類学会と国際映像人類学会共催の学会においてユルックの現代的な復興に関わる映像発表、8月に日本中東学会において、トルコ最大のユルック文化祭典の分析について研究発表を行なった(以上2019年度決定につき昨年度分業績欄に記載)。書籍・論文出版については、同文化祭典をパフォーマティヴで集団的な歴史構築の場として考察する英語論文が、「場」を巡る人類学の研究書の一章として米国の出版社より出版された。さらに遊牧民文化の一部と目されているトルコのラクダ相撲用のラクダ交配と利用に関わる論文も共著出版したのに加え、ユルックの国家との関係や近代における変化と現代のユルック文化復興について執筆し、文化人類学の初学者向けの書籍に所収・出版された。 以上、新規に何かを「発見」することには大きな制約があったものの、データを整理したうえで積極的に社会にアウトプットしてゆくことに重心を置いて研究活動を推進した一年であった。他にも学界全体で世界的にオンライン化が進んだことにより、国内外の学会や研究会にかつてない頻度で参加でき、知見を広げ意見交換を行なえたことも、今後の研究展開にとって重要な基礎となることは疑いない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、渡航制限により計画していた海外の現地調査を実施することができなかった。これは不可抗力ではあるが、当初の目的に照らすとマイナス要因である。しかしその代わりに、前年度までに収集した調査データ・映像・文献等資料の整理と精査を進めながら、成果発表を積極的に行うことができた点で十分な進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
まだ先の見通しが立たない新型コロナウイルスの感染状況を注視しつつ、その都度可能な限り柔軟にできることを進めてゆくほかない。すでに2020年度に注力した成果発表を経て、手持ちのデータだけで本研究課題の目的に沿った新たな論文を執筆するには限界を感じ始めている。 トルコに渡航できるようになるにはまだ相当な時間が必要であることが予想される。特に、当初計画していたユルックたちの物質文化の悉皆調査に基づく分析や生業・生業上の複合的なネットワーク分析など、現地調査でなければ困難なテーマからは、現時点では距離を置かざるを得まい。その代わりに、インターネット上の情報やこれまでに構築した調査地の人々とのSNS上などでのインタビュー等も積極的に研究データとして採用できる、研究の方向性の転換と方法論の検討をし、早晩に軌道修正していく必要がある。上記のSNS等を活用する方法は実際に試行してみると時差の障壁やサンプリング・情報の質等の問題はあるものの、十分に工夫の余地はある。世界中で同じ制約に直面する研究者がほかにも様々な実験的取り組みを始めており、情報収集をしながら、引き続き自らの研究を柔軟に進めてゆく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
渡航制限により、海外調査・海外渡航を伴う学会発表等、国外での研究活動が一切できなかったため、多額の繰越が生じた。翌年度に海外渡航ができる状況になれば海外現地調査および国内外での学会での発表、研究交流等に使用する、そうでなければ研究期間の延長等も検討する予定である。
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