研究課題/領域番号 |
18K12595
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
田村 うらら 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (10580350)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 遊牧民 / ユルック / 人類学 / 文化復興 / トルコ共和国 |
研究実績の概要 |
本研究は、モノ研究と経済人類学の視点から、トルコの「遊牧民」の現代的布置について明らかにすることを目的とする。ユルック(トルコ遊牧民)を自認する人々の過去数十年の変化の過程に着目し、遊牧民を広く遊動-半遊動-移牧-半移牧-定住の連続のなかで捉えなおすことを通して、本質主義的な遊牧民研究に優勢な「消失の語り」を克服し、現代に生きる遊牧民とその生活実態を詳らかにすることを、目指してきた。 当該年度も、前年度に引き続き、新型コロナウィルスの世界的流行に伴う渡航制限等のために、トルコにおける現地調査がまったく実施できなかった。 その代わりに、引き続き可能な限りインターネット上の情報や文献資料の精査と、2019年度までに収集したフィールドデータの分析を進め、それらをもとにした成果発表に注力した。特に2019年度までの現地調査で収集することができた1次データは、「ユルック」を自認する都市居住者に関わるものが中心であったため、彼らが中心的な役割を果たすユルック等文化協会の活動やその社会的影響に関わる分析を進めた。協会等が主催する文化祭典の分析は前年度に集中的に行なったが、それに加えて協会関係者が集うシンポジウム・会議等の分析も、その報告書等をもとに行なった。特に一般市民の包含を意図せず関係者が集うこれらの会議等では、より明確な形で戦略的な「ユルック-トルクメン文化」復興の重要性と、諸外国のテュルク系人口居住地域、テュルク系諸国との強い連帯の必要性が強調されていた。こうした成果を、日本中央アジア学会2021年度年次大会の公開シンポジウムにおいてパネリストとして報告した。 さらに、現在も家畜を飼養し移動を続ける「現役ユルック」たちの現在の姿を伝え、トルコ社会一般に広く見られる「ヤイラ(夏営地)」へのこだわり・憧れについて考察する写真付き論考を一章執筆し、出版した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初4年計画であったが、新型コロナウィルスの世界的流行により、後半の2年半にわたってまったく現地調査を行うことができなかったため。 もちろん、後半の2年半はそれまでのデータ精査や文献資料・インターネット上のデータ収集に注力し、学会発表と論文等執筆の成果発表に努めて例年以上に業績を積み上げてきた。しかしながら実質的な1次データ収集の機会がごく限られていたことは、人類学的研究課題遂行において如何ともしがたい大きな障壁であった。当該年度が当初予定では最終年度であったが、フィールドデータの不足により当初の研究目的が達成されたとは言い難い。 そこで、当初の目的達成に少しでも近づくために研究期間の延長を申請するに至った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、機会を捕まえて当初の目的を達成すべく、現地調査を進める計画である。本科研実施期間のうち、初めの1年半のあいだにようやく集めることができた現地調査によるデータの多くは、都市部在住の「ユルック」たちについてであり、これまでの研究成果もそれに基づくものが大半であった。村落部で移動しながら家畜を飼養する「現役ユルック」たちの生活実態についての調査は、端緒についたばかりであり、今後は特に彼らについての集中的な調査と分析を進めてゆく予定である。その際特に注目するのは、当初の計画通り以下の3点である。1.所有するモノとその変化にまつわる調査(世代間・時代・場所と居住空間)2.生業と人生をめぐるさまざまな局面での選択についての調査 3.生活・生業上のネットワークと変化の分析(経済関係・地縁関係・親族関係等)。 なおその成果も、国内外の学会等で発表し、ジャーナルに投稿して発表してゆく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
世界的な新型コロナウイルス流行による渡航制限が継続したため、当初予定していたトルコでの現地調査の実施ができなかったため。 繰越分については、状況が好転し次第、勤務先の大学学期期間外にトルコへ渡航して現地調査を進めるための旅費に主に使用する。それに付随する調査用機材・消耗品・資料購入費等にも使用する予定である。
|