本研究は、モノ研究と経済人類学の視点から、トルコの「遊牧民」の現代的布置について明らかにすることを目的とする。ユルック(トルコ遊牧民)を自認する人々の過去数十年の変化の過程に着目し、遊牧民を広く遊動-半遊動-移牧-半移牧-定住の連続のなかで捉えなおすことを通して、本質主義的な遊牧民研究に優勢な「消失の語り」を克服し、現代に生きる遊牧民とその生活実態を詳らかにすることを目指してきた。 最終年度となった2023年度は、これまで蓄積したデータを精査することに加え、9月に4泊5日(調査対象地域にはうち2日間)の現地調査を行ない、コンヤ周辺に夏営地を構えるサルケチリ氏族のユルックたちのインタビュー・観察等を実施し、現代も季節的移動とテント生活を行なうユルックの生活実態を可能な限り記録した。 研究実施期間全体を振り返ると、2年の延長分を含め6年間の研究期間となったが、そのうち中程の3年間は、新型コロナウィルスの世界的感染拡大に伴い全く現地調査を行うことができなかった。開始直後の2年間に実施した主なフィールドデータは、都市部在住で文化復興に熱心な(元)ユルックたちを取り巻く状況に関する事柄であった。そのため、パンデミックの3年間には彼らの存在と現代トルコ社会や国家との関係(社会的付置)に関わる分析、関連文献の精読等を重点的に進め、その成果を複数の著書、論文、地域研究系の学会発表などで積極的に発表した。 他方で、移動生活を送るいわゆる「現役ユルック」の生活実態については、渡航制限が解除された後も、時間的な制約や現地の状況変化等により、十分なデータを集めるには至らなかった。したがって、現代に生きる「現役ユルック」の生活設計に関わる経済人類学的・モノ研究的なデータ収集と分析を、後続の研究課題に託すこととなった。本研究期間中に得られた知見と人脈は、その後続課題にも大きな糧となると予想される。
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