本研究の目的の一つは、2013年末の南スーダン内戦以降、国外に逃れた南スーダン難民の紛争経験と西ナイルの神性とのかかわりを明らかにすることであった。 最終年度は、これまでの調査研究の成果をまとめ、ウガンダに暮らす南スーダン難民を対象とした民族誌を執筆した。民族誌は、人々の難民としての暮らしや避難地域の社会関係や文化実践を総合的に描いたものである。本研究の目的と関わる部分として、難民経験と西ナイル系集団に伝わる起源神話とのかかわりが一つの章の中で描かれている。当該の章では、西ナイルの民族誌的資料から抽出した起源神話と、それが難民としての暮らしのなかで再発見・再構築され、人々のナショナル・アイデンティティまたはエスニック・アイデンティティの形成とどのように関わっているのかを明らかにした。 研究期間全体を通して、南スーダンやウガンダの難民コミュニティでの現地調査で得た資料と、西ナイル系集団および南部スーダンの歴史・民族誌的資料を総合的に分析し、その成果を国内外の学会で発表し、研究論文や民族誌としてまとめることができた。本研究の意義は、「強制移動」や「難民」という現象を、現代社会の「問題」の一つとして捉えるのではなく、長い遊牧と避難の歴史を経験してきた人々のなかで問題化されるやり方に応じてとらえ直したことにある。これによって、既存の難民や強制移動を問題化してきた先進国側が抱える視点が内包する矛盾や論点を炙り出し、「難民の世紀」における新たな秩序をめぐる想定の可能性について論じることができた。
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