研究課題/領域番号 |
18K12603
|
研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
岡部 真由美 中京大学, 現代社会学部, 准教授 (40595477)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 宗教-世俗 / 境界 / 制度 / 寺院居住(寺住まい) / 上座仏教 / タイ / シャン / 「難民」 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ミャンマー・シャン州からタイ都市部の仏教寺院へ流入する「難民」の生活実践に焦点をあてて、現代社会における宗教-世俗の境界(インターフェイス)が編成される過程を民族誌的に明らかにすることである。 初年度にあたる2018年度の具体的な研究実績の概要は次のとおりである。1)日本文化人類学会第52 回研究大会(6月3日、弘前大学)にて、タイ社会における宗教-世俗の境界編成に関するこれまでの研究成果を報告するとともに、当該分野の国内研究者との研究交流をおこなうことによって、本研究の方向性を明らかにした。2)タイにおいて2度の現地調査を実施した。1度目は、8月に主としてバンコクにて、ミャンマーからタイへのシャン人の国境を越えた移住に関する文献資料と、タイの寺院運営をめぐる法や制度に関する文献資料の収集をおこなった。また2度目は、2月にバンコクにて、シャン人移住者が多く集まる、複数の仏教寺院のほか、シャン人移住者の相互扶助組織を訪問し、出家者と在家者(いずれもシャン人)の双方を対象にインタビュー調査をおこなった。 以上の調査研究活動から明らかになったことは、タイとミャンマーの両国における政治的経済的な変化を背景として、近年、タイの都市に大量のシャン人が流入する現状がある一方で、バンコクではシャン人集住地区が形成されず、彼らの多くが低賃金労働者として分散して居住する傾向にあることである。また、寺院運営上の理由から、バンコクではタイ国内の地方都市に比べて在家者の寺院居住が困難であり、シャン人移住者は、寺院に「住む場所」として意味づけることはほとんどなく、儀礼遂行ないし教育/学習の場所として意味づけていることである。これらのことは、タイにおける寺院居住の実践が、都市の規模や個々の寺院の運営方針に左右されつつも、宗教をめぐる諸制度の隙間で多様に展開されうることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度に実施した8月の現地調査では、予想以上に、バンコクにおけるシャン人の居住が分散していることが判明し、当初の調査計画を変更せざるを得なかった。そのため、バンコクにおけるシャン人の移住の歴史と現状に関する基礎的な情報を入手することはできたものの、入国管理局や統計局などの行政機関や難民支援NGOなどをとおして、タイ国内におけるシャン人移住者の数と分布に関する量的なデータを収集するには至らなかった。 また、日程の都合により、当初予定していた国際学会への参加を見送ったため、海外における人類学の宗教研究の動向把握と海外研究者との意見交換をおこなうことができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究計画を見直し、現地調査の回数を8月と2月の2回に増やすことで、2018年度のデータ収集の遅れを取り戻す。また、海外における人類学の宗教研究の動向把握と海外研究者との意見交換については、国内外の研究集会に積極的に参加するとともに、ウェブサイトやデータベース等を利用した情報の収集を継続することによって、課題を解決する。 2019年度の現地調査の具体的な計画は次のとおりである。 まず、8月~9月の現地調査では、主としてバンコクにて行政機関や難民支援NGOなどを訪問し、2018年度に実施できなかった、タイにおけるシャン人移住者の数と分布に関する量的データの収集をおこなう。また、チェンマイでも同様の手法で、タイ北部の現状を明らかにする。 また、2月~3月の現地調査では、これまでの調査研究の成果にもとづいて、バンコクないしチェンマイ都市部の一寺院を事例に選定し、そこでシャン人「難民」のライフストーリーを収集する。移住の経緯 、宗教実践(出家や儀礼)、家族・親族のつながりの各点に焦点を当てながら、関連文献の検討をふまえた調査データの分析をおこなう。 これらの活動をとおして、2019年度の研究目標である、寺院におけるシャン「難民」の生活実践をミクロなレベルで解明することを目指す。
|