研究課題/領域番号 |
18K12603
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
岡部 真由美 中京大学, 現代社会学部, 准教授 (40595477)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 宗教-世俗 / 境界 / 制度 / 寺院居住(寺住まい) / 上座仏教 / タイ / シャン / 「難民」 |
研究実績の概要 |
計画2年目にあたる2019年度は、2019年8月~9月と2020年2月に主としてタイで計1か月ほどの現地調査をおこなった。具体的な研究実績の概要は次のとおりである。 1)タイ北部のチェンマイ市域内の4分の1ほどの仏教寺院で「難民」の居住実態に関する聞き取り調査をおこなった。その結果、①チェンマイでも在家者の寺院居住は僅少にとどまる、②どの寺院でも近年出家者(沙弥)が減少している、③エスニック・グループによる寺院の棲み分けがある、ことが明らかになった。 2)チェンマイ都市部でシャン人移住者を支援するNGO組織を対象に、シャン人「難民」の居住実態に関する聞き取り調査をおこなった。その結果、シャン人の多くは都市部で低賃金労働者として生活しており、寺院居住や出家教育は必ずしも一般的な選択肢ではないことが明らかとなった。彼らの寺院との関わりは儀礼の機会が中心的であると考えられる。 3)バンコクの2つの寺院で、シャン人移住者が多数集まるようになった歴史的背景と現状に関する聞き取り調査をおこなった。その結果、①いずれの寺院もシャン人によって移住先に「自分たちの場所」を創出するために建立された、②儀礼への参加をとおして、故地とのつながりを再確認し、エスニック・アイデンティティを形成することが可能となっている、ことが分かった。 以上を踏まえて、タイ都市部におけるシャン人「難民」の寺院居住(寺住まい)の実践は、寺院による「庇護」のもとに居住のニーズが充足されるケースに限って成立しうることを指摘できる。また、寺院居住の実践から現代社会における宗教-世俗の境界の編成を考察するにあたって、今後は、在家者に加えて出家者の動向により注視して、実践を取り巻く諸アクターとの関わりのなかで捉えていくことが課題となる。なお、2019年度は、これまでの研究成果を図書の分担執筆というかたちで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度に実施した8月の現地調査では、予想に反して、チェンマイ都市部の仏教寺院においてもシャン人「難民」の寺院居住(寺住まい)の実践があまり観察されないことが判明した。そのため、当初予定していた調査計画を大幅に変更し、寺院居住の実践者の射程を、在家者から出家者(とりわけ沙弥)へと広げ、チェンマイ市域内の各寺院で悉皆調査をおこない、基礎的なデータを収集することから開始した。チェンマイ市域内の寺院数は約130に上るが、日程の都合上、まだ4分の1程度の寺院での調査にとどまっている。それゆえに、調査結果の考察・分析が遅れ、学会での口頭発表や雑誌論文のかたちで成果を発表するに至っていない。 これらが研究の進捗を「やや遅れている」と判断せざるを得ない理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進捗状況をふまえて、2020年度の研究計画についても見直しが必要である。以下の二つの点を中心として研究を推進していくものとする。第一に、2019年度の調査研究を発展的に継続するために、当初の予定よりも、出家者の動向により注視した現地調査をチェンマイ市域の仏教寺院でおこなうことを最優先する。第二に、当初の予定であった、シャン人「難民」が寺院空間の維持・運営に及ぼす影響を明らかにすることに取り組む。その際、特定の寺院に焦点を当てて、寺院という生活の空間の維持・運営において、宗教-世俗の境界が編成される過程をミクロなレベルから明らかにする。2019年度の調査から、多くの寺院で過去1~2年間にシャン人の出家者(とりわけ沙弥)が減少したことの背景として、シャン人の身分証明書をめぐって宗教行政が監視を強化したことの影響が浮かび上がってきた。ここでは、宗教-世俗の境界の編成に関わる諸アクターのひとつである行政の働きが顕著であるが、この他にも寺院居住の実践に介入するアクターを丹念に追いながら、宗教-世俗の境界の編成の過程を民族誌的に描写することに取り組む。 これらの成果を2020年度中に取りまとめ、順次、口頭発表ないし論文として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の業務との調整の結果、当初計画していた学会発表や現地調査のための出張日程を変更したため、次年度使用額が生じた。これについては、次年度の出張計画において有効に使用する予定である。
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