研究課題/領域番号 |
18K12603
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
岡部 真由美 中京大学, 現代社会学部, 准教授 (40595477)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宗教―世俗 / 境界 / 制度 / 寺院居住(寺住まい) / 上座部仏教 / タイ / シャン / 「難民」 |
研究実績の概要 |
2020年度に引き続き、2021年度も新型コロナウィルス感染症の影響による海外渡航制限のため、研究目的を達成するに不可欠な現地調査を実施することができなかった。そのため、今年度も当初の計画は大幅に変更し、2018年度および2019年度にタイ・バンコクおよびチェンマイで収集した調査データのさらなる考察・分析をおこない、文献研究に取り組んだ。その成果を国内外の学会・研究会等で報告した。概要は次のとおりである。 第一に、チェンマイの寺院へ流入するシャン人のほとんどが出家し僧院教育を受けていることから、彼らの生活実践を可能とする現代タイの僧院教育制度の現状について考察した。チェンマイ郊外の僧院学校では、1990年代後半より急増したシャン人越境労働者の子どもの僧院教育ニーズが高まったことを発端に、教育内容や運営方法をめぐる対立が生じている。また、第二に、チェンマイにおいて僧院教育を受け出家者として生きるというシャン人の生活実践を可能とする、現代タイの仏教的な布施の現状について考察した。タイでは1980年代後半からの急速な経済発展に伴い、仏教組織に集まる布施(とりわけカネ)が量的に増加したため、布施をどのように獲得・使用するかが組織にとっても社会にとっても本質的な課題となっている。行政による寺院会計の透明化・説明責任の強化の試みが「監査文化」を形成しつつある一方で、個々の組織のレベルでは法制度やメディア技術を利用した展開がおこなわれており、より良い布施を求める都市住民らのニーズを充足しつつある。 これらのことから、現代タイにおいて僧院教育を受け出家者として生きるというシャン人の生活実践が、仏教組織を取り巻く多様なアクターの関わりあいと、不断に生成する「宗教に関する言説」(=社会において宗教がどうあるべきか)の作用のなかで成り立つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
最大の理由は、2020年度に引き続き、2021年度も新型コロナウィルス感染症の影響による海外渡航制限のため、研究目的を達成するに不可欠な現地調査を実施することができなかったためである。まず、先述の基礎的なデータの収集を再開できていない。また、2020年度に断念したドイツおよびミャンマーでの調査もまた断念せざるを得なかった。これら複数地でのフィールドワークは本研究課題の推進にとってきわめて重要であることから、それが成しえていない研究の進捗状況を「遅れている」と判断した。 また他にも、研究成果を報告する予定であった国際学会等も延期や変更が相次いだことも、進捗の遅れの遠因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの研究の進捗状況が遅れていることから、研究期間を1年間延長することとした。2022年度も当面は海外渡航にはさまざまな規制が伴うことが予測されるものの、各国の大使館等から最新の情報を適宜入手し、安全に留意しながら現地調査を再開できる可能性を引き続き探っていくためである。現地調査が再開できた場合でも、研究課題の遂行における重要度に応じて、タイ・チェンマイ都市部での基礎的データの収集を最優先し、次いでドイツのキリスト教会での調査をおこなうよう、計画を変更する。また、ミャンマー・シャン州での調査は、新型コロナウィルス感染症の影響だけでなく、同国における政情不安も考慮して断念することとした。 また、仮に現地調査が再開できなかった場合は、日本国内におけるタイ系寺院の調査をおこなう予定である。過去約20年間に日本国内ではタイ移民の増加に伴い、タイ系寺院が増加しているものの、その実態はほとんど明らかにされてこなかった。国内調査をおこなうことにより、タイ国内での調査データを相対化する視点を得ることができると期待される。 さらに、最終年度に当たる2022年度は、昨年度の国内外での報告で得られた知見をふまえ、論文のかたちで成果を発表することにも注力する。その際、オンライン・ミーティングツールなどを活用して、国内外の研究者と議論をすすめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により海外渡航が規制されているため、旅費をはじめとする諸経費を計画通りに執行することができなかった。次年度は、海外渡航に関わる規制が緩和されれば、延期していた海外でのフィールドワークを重要度に応じて順次再開する予定であるが、規制が継続されれば、計画の見直しをおこない、国内でのフィールドワークを実施することも視野に入れている。
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