第一に、これまでにタイで収集した調査データの考察・分析を深め、その結果を国内外の学会・研究会等で報告した。1980年代後半からのタイにおける急速な経済発展は、仏教寺院に集まる布施(とりわけカネ)の量的増加をもたらした。以来、布施をどのように獲得・使用するかが仏教寺院にとっても社会にとっても本質的な課題となっているタイにおいて、ミャンマー・シャン州からの移民・難民の「寺住まい」の実践は、仏教寺院という組織のアカウンタビリティに関わる複数の言説や制度の絡み合いと不可分に展開されていることを明らかにした。 第二に、この成果を他地域の文脈において検討するため、日本国内のタイ系寺院で計4回の現地調査をおこなった。調査から明らかになったことは、日本におけるタイ移民の増加に伴って過去約20年間に増加したタイ系寺院は、宗教行政による管理が行き届かない環境下にあり、組織のアカウンタビリティに関わる制度がタイとは異なることである。それゆえ、タイ移民の「寺住まい」の実践は、布施(とりわけカネ)の使用をめぐる、複数のアクターのあいだの、よりインフォーマルな交渉のなかで展開されている。 第三に、仏教寺院という組織のアカウンタビリティに関わる制度を理解するために、タイ・バンコクにて、寺院会計に関する補足調査をおこなった。NIDA(National Institute of Development Administration)を訪問し、現地研究者と意見交換のほか、図書館での文献調査をおこなった。また、中国系善堂での布施や財団での寄付に関する参与観察をおこなった。 2018年度から4年間の予定で開始した本研究プロジェクトは、2019年度末以来、新型コロナウィルス感染症の影響によって研究に大幅な遅れが生じたため、計画を見直し、期間を1年間延長した。今後は得られた成果を学術雑誌等への投稿論文として発表する。
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