研究課題/領域番号 |
18K12604
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
和崎 聖日 中部大学, 人文学部, 講師 (10648794)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中央アジア / タサウウフ / スーフィー / 詩 |
研究実績の概要 |
研究の目的は、スーフィーたちによるスーフィー詩が、中央アジア諸国でどれほどの地域的な広がりをもって、どのような場面で詠唱されているのかを明らかにすることであった。この目的に照らして、2019年度にはウズベキスタンのサマルカンド州とジッザフ州、フェルガナ盆地などでフィールド調査を実施した。これらの調査によって、ポスト・ソヴィエト時代のウズベキスタンにおいてタサウウフがどの程度の広がりを有しているのかを実証的に探究にするうえで重要なフィールド・データが得られた。たとえば、フェルガナ盆地では、継続的に調査を実施しているタリーカ(ジャフリーヤ)の導師から、バイア(入門)の手順や声高のズィクルの実践、ソ連時代の歴史、タサウウフの現状についての語りを詳しく聞くことができた。ジッザフ州の山岳地帯では、遊牧系ウズベク人(部族名:サライ)の集落において(ソヴィエト民族学的な説明をすれば)シャーマニズムとスーフィズムが見事に結合した「病気治療の儀礼」を観察することができた。この儀礼をとりおこなう「クシュノチ」と呼ばれる女性の治療者たち、ならびに病人から詳しく話を伺うとともに、儀礼を含めたすべてを映像として収録することもできた。そのほか、フェルガナ盆地の村においてタサウウフと関連した聖者崇敬(聖木崇敬も含む)に関して、ウズベキスタン国立科学アカデミー歴史学研究所のA・アシロフ氏、ならびにウズベキスタン国立芸術・文化大学のI・メリコズィエフ氏との共同で民族誌映画(Guli Armug`on: Women's Local Islamic Ritual in Uzbekistan)を制作した。そこでの聖者崇敬では、オティンと呼ばれる女性のイスラーム知識人によるスーフィー詩の朗唱もなされた。この作品は現在、ヨーロッパの複数の民族誌映画祭に出品中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、おおむね順調に進展しているうえ、一部では予想以上の成果も出すことができている。その一部とは、フェルガナ盆地のタジク人社会での聖者崇敬に関する民族誌映画(Guli Armug`on: Women's Local Islamic Ritual in Uzbekistan)の制作、ならびに民族誌映画祭への出品である。本研究課題では本来、声高のズィクルをめぐる民族誌映画の制作を予定していたが、やや偶発的に聖者崇敬をめぐる撮影を首尾よく行うことができた。なお、この民族誌映画の制作過程においては、科研費・基盤研究(A)「イスラームおよびキリスト教の聖者・聖遺物崇敬の人類学的研究」(研究代表:赤堀雅幸[上智大学])の分担金も執行した。また、ジッザフ州の山岳地帯でおこなわれているタサウウフと関連した病気治療も予想していた以上に素晴らしいものであった。手太鼓を使打ち鳴らし、神の名を連祷して高揚した精神状態になりながら、病人を治療する様子を映像撮影できたことも私としては非常に大きな収穫であった。そのほか、本研究課題がおおむね順調に進展しているとした理由は、研究成果の一つとして、学会発表(日本クリルタイ学会)、ならびに論文2本(「ウズベク語におけるクルアーンの解釈と翻訳について」[訳稿。序文も執筆]と「旧ソ連中央アジアのスーフィズムと病気治療:ジャフル儀礼の手順」)の刊行をおこなうことができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策について、現在先行研究の収集と精読をいっそう集中的に行っており、今年度中には論文を最低2本は学会誌などに投稿したいと考えている。新型コロナ・ウイルスの影響で夏に海外調査に行けない可能性が高いので、論文の執筆にいっそう集中して取り組みたい。当初の予定では昨年度の3月にウズベキスタンとカザフスタンで本研究課題のフィールド調査を実施する予定であったが、新型コロナ・ウイルスの影響で延期せざるを得なかった。これらの調査を本年度に行うことができない場合には、研究計画を変更し、本科研の継続期間を一年延期する手続きを取りたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ・ウイルスの影響で海外調査の予定を延期せざるを得なかった。今年度では夏にウズベキスタン調査に行くことができれば、そこで昨年度計画していた調査事項を実施する予定である。それができなかった場合、今年度の冬に同様の調査事項を実施する。
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