研究課題/領域番号 |
18K12606
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
青木 敬 京都外国語大学, 国際言語平和研究所, 嘱託研究員 (60791217)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歌謡モルナ / 即興性 / 身体行為 / 感情と情感 / 観光 / 伝統と近代 / 音楽の変容 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、環大西洋奴隷貿易以来、白人と黒人の混血であるアフロ・クレオールの 文化的営みによって発展してきた音楽に表現される身体行為の役割と、アフロ・クレオール 社会の文化的遺産の今日的価値を明らかにすることである。そのため本研究では、アフロ・ クレオール社会の中でも独自の発展をしているカーボヴェルデ共和国の伝統歌謡モルナに注目し、モルナの音楽と身体行為の関係を考察する。具体的には、①モルナの演奏時に、歌詞に含まれる郷愁にかんする意味をもつ概念「ソダーデ」が、どのように身体をつうじて表現されるか、②その情動表出がモルナの演奏でどのような意味と役割をもつかを分析することである。 1年目は、モルナの形成過程と変容において重要であるカーボヴェルデ南部に位置するサンティアゴ島、ブラヴァ島、フォゴ島を対象にフィールドワークを実施した。これまでおこなってきたモルナ研究の対象が北部であったためである。ブラヴァ島およびフォゴ島は、人口が少なく、モルナの演奏をみることはまれであった。しかし、カーボヴェルデ北部でみられるような観光客のために演奏される新しい形式や意味をもつモルナではなく、20世紀に演奏されていた「昔ながらの」モルナを記録できたことは貴重であった。それは20世紀に表現されていたソダーデの情感をみることができたからである。首都が位置するサンティアゴ島にかんしては、観光客に向けて歌われるモルナが演奏されていた。観光客を対象としたモルナは即興性とは対照的な「準備されたパフォーマンス」を意味する。 これらのことは、身体行為を分析するうえで重要である。今年度は観光客を対象としたモルナと余暇としてうたわれるモルナの双方を確認することができ、音楽家に多くのインタビューをおこなうことができた。今後はこれらのデータを整理し、分析するとともに、北部のモルナにかんする映像記録を撮る必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、カーボヴェルデ南部で実施したフィールドワークは、はじめて滞在する島々であったため、予備調査の段階で終わった。しかし、予備調査とはいえ、身体行為やソダーデの概念を再考するうえで必要なデータを十分に得ることができた。 それに対してカーボヴェルデ北部でおこなった調査では、フィールドワーク中に新たな研究課題(問題)を発見したため、本調査を予定どおりにおこなうことは困難であった。しかし、北部における歌謡モルナの演奏や、ソダーデの身体行為にかんするデータを入手することができたため、本研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度実施したカーボヴェルデ南北で得たデータを詳しく記述・分析し、論文を投稿することを目指す。北部で新しく見つけた研究課題にかんしては、本研究との関係性および位置づけを示すことで、来年度の研究計画に組み込む予定である。 また、来年度には当初の研究計画に示しているように、モルナの楽曲のデーターベースを作成することに専念する。これにより、①発展性がある新規のテーマの位置づけ、②本研究のテーマである身体行為の分析をおこない、その一部の成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度で必要であろうと考えていた人件費、すなわち通訳やフィールドワークを実施する際に協力していただいたひとへの謝金を支払うことがなかった。 翌年度は、論文執筆に必要な英語校閲、また研究協力者への海外渡航費や謝金を支払うことが必要となることが予想される。
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