研究課題/領域番号 |
18K12608
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
唐澤 太輔 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (90609017)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 華厳思想 / ユング / 那智山 / 明恵 |
研究実績の概要 |
南方熊楠顕彰館で、直筆日記の調査を中心に行った。1904年4月25日付日記に記された熊楠による乖離する自己イメージ(いわゆる幽体離脱)に関する図を写真撮影の上、考察を行った。その成果は、論文「聖地那智山における表象-南方熊楠の体験から-」として発表した(『世界仏教文化研究論叢』第57集、龍谷大学、2019年3月)。この図は、これまで『全集』『日記』などには未収録だったものである。論文の中で、熊楠による三次元的空間を越えて知覚した不可思議な表象の記述が、我々にどのような事柄を示すのかについて考察を行った。そしてそれは、「通常」の我々の認識における自己と「世界」との在り方への根本的な疑問を呈するものであることを示した。 その他、龍谷大学内で月1回の割合で華厳研究会を主催し、夢と華厳思想との関わりについて考察を深めた。2019年2月には、ジュンク堂池袋本店で公開研究会を開催し「「脳力」と夢-熊楠の言説に見る華厳的パースペクティブ-」と題する発表を行った。「脳力」とは熊楠による造語である。それは、簡単に言うならば、特別な集中力によって「妙なつながり」を見出す力のことである。熊楠は「脳力」によって普通は対立したり全く無関係に見えたりする事柄同士の本質的な「つながり」に気づいていた。熊楠の記述などからは、そのような本質的な「つながり」が見える「深い」次元に入りこんでいたことがわかる。一方、彼は、その次元に留まることなく、そこと「通常」の在り方との間を往還していたこともわかることを示した。 「南方熊楠が夢や幻の探求を通じて目指していたこと-アイスバーグモデルを参照にしながら-」(『「エコ・フィロソフィ」研究』第13号、東洋大学)では、C.G.ユングの思想を参照にしながら、熊楠が、夢や幻の探求を通じて(また仏教用語とその概念を用いながら)人類の精神の深層構造に迫ろうとしていたことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、当初の計画通りに南方熊楠顕彰館において、直筆日記の調査を行うことができた。その上で、夢に関する重要記述および図(挿絵)を撮影し、論文としてまとめることもできた。熊楠による華厳思想に関する新たな記述は発見できなかったが、既刊の『全集』(平凡社、1971~1975年)および『日記』(八坂書房1987~1989年)、土宜法龍との『往復書簡』(八坂書房、1991年)などから改めて、華厳思想から影響を受けたであろう記述を精査した。 本研究は、明恵の思想と夢および華厳思想に関する研究も行うものであるが、2018年度は、龍谷大学内で華厳思想の研究者および密教の研究者とともに月一回の研究会を開催することができたことは、2019年度に向けての研究の助走として大変有益なものであった。 2019年度は、明恵の見た夢について『夢記』を中心に調査し、その記述と華厳思想とのつながりをより深く研究していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、華厳研究会(公開研究会を含む)を何らかの形で継続開催し、華厳と夢に関する研究を深めていく。ただし、所属機関の変更により、頻繁に開催していくことはなかなか難しい可能性があるが、スカイプでの実施も検討中である。 また、引き続き、南方熊楠顕彰館で、未翻刻の直筆日記を中心に調査を行う。2018年度は、熊楠の夢と共時性に関する事柄について考察したが、2019年度は、それをさらに深め、華厳思想における「理事無礙法界」「事事無礙法界」と共時性に関する考察も行っていきたい。 さらに、熊楠が生きた時代における華厳思想の受容の在り方を調べる予定である。例えば、当時のアカデミックな場において、誰がどのように研究・応用していた(しようとしていた)のかなどを調べる。熊楠とほぼ同時代に生きた早田文蔵(1874~1934年、植物学者)は、華厳思想に大きな影響を受けており、その思想は熊楠と類似する点が多くある。早田を糸口にしながら、当時の華厳思想がどう捉えられていたかを考察していきたい。
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