1年の延長を加えた最終年度にあたる本年度は、主として前年度までの間に確認できた史料類の目録化と整理にあたり、あわせて研究内容の総括を実施した。 これによって得られた成果として、大きく以下の4点を挙げることができる。①奄美における村落自治文書の残存状況の概要と傾向が明らかになった。コロナ禍により十分な現地調査が叶わなかったこともあるが、質問紙調査の限りこれらの史料類の残存は限られており、かつこれは逸失のみならず、そもそもそうした文字化された議事資料の作成が、特定の集落においてのみ属人的になされてきた結果であると考えられる。②奄美の集落(シマ)の自治の民俗の概要とその歴史的変遷の実態が明らかになった。これはこの事業で得られた史料類とともに、近代の諸資料類の分析によって明らかになってきた点である。これにより、今後は沖縄の集落ならびに本土鹿児島以北の集落との比較研究の基礎となる社会像を築くことに成功した。③住民による奄美のシマの自治のあり方につき、地域的な顕著な差異があることが具体的に明らかになった。すなわち村落自治の形態や、その自治の空間的な範囲のあり方については奄美諸島の中でも決して一様ではなく、個々の集落によって大きく異なっていたことが分かった。④こうした奄美の村落の自治の文化は、島嶼町村制の施行される明治40年代から大正時代にかけて大きく変化した様子があることが確認された。すなわち、大きな行政上の変化に対応して、個々の集落のレベルでも自治への関心の高まりや、体制の実質化が生じていたことが分かった。 こうした総括とともに、本事業の過程で得られた大正期の史料の修復とデジタル化を行なった。これは与論島の帳簿資料で当時流通していた日用品や物価などの読み取れるものである。これらを含めた整理によって従来未発掘だった奄美の在地史料の研究資源化を達成した。
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