研究課題/領域番号 |
18K12612
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
萩原 卓也 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (80803220)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スポーツ / 文化人類学 / 身体 / ケニア / 自転車 / フィールドワーク / 集団 / 共同性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ケニアの自転車競技選手を事例に、たがいに葛藤や嫉妬を抱えつつも共存している集団の在り方を探究することをとおして、社会集団の生成とその持続性を論じる研究に一石を投じることである。他者との共存を論じる際に、何かを共有、または何かに同調することによって共同性が立ち上がることを指摘することも重要であるが、むしろ問うべきは、差異や葛藤を抱えながらもたがいに共存することを可能にするその在り方である。スポーツ選手の身体的な経験をモノや周囲の環境との接点において捉えなおすことで、身体性を基盤とした共存の可能性について考察する。 初年度は、おもに文献研究を理論研究と事例研究に分けて実施した。具体的に、理論研究では、アフォーダンスに代表される生態学的視点にまつわる諸概念や「身体化された心」の研究群を精読することで、スポーツ選手の実践をモノや周囲の環境との関係において捉え直すことができた。事例研究では、障害や病いをもった「思い通りにならない身体」と、周囲の環境との相互作用を扱った研究を精読した。そのなかで、周囲の環境との関係に埋め込まれた身体の直接経験こそが、思考・認識・知覚の基礎になっているとする立場を批判的に検証することができた。 また、申請書にも記したように、本研究は自身のこれまでのフィールドワークの延長線上に位置づけられる。本年度の研究をとおして、これまでに収集していたデータの分析を複眼的に深めることができた。さらに、それらの成果を幅広い層に発信することができた。具体的には、①萩原卓也、2019、「「わかる」への凸凹な道のり―どうしようもない身体を抱えて走って」『ラウンド・アバウト-フィールドワークという交差点』神本秀爾・岡本圭史編、pp.27-38.②萩原卓也、2019、「 痛みが開く、わたしが開く」同上、pp.39-50.があげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画に沿う形で、初年度は文献研究(理論研究と事例研究)と研究者とのネットワーク構築に力を注ぎ、大きな収穫を得ることができた。初年度の文献研究により、2019年度夏季に予定しているケニアでの現地調査における課題もいっそう明確になってきた。また、初年度はスポーツ社会学会とスポーツ人類学会に参加し、人類学においてスポーツを扱う意義とその可能性について、十分に議論することができた。アフリカにおけるスポーツ実践は、国内外で注目されており、いくつかのプロジェクトも発足している。こうしたプロジェクトと連携し、多方向に展開していく可能性があることもわかった。さらに、研究成果の一部を研究者以外の層にも広く発信できた。教育面において、講師として担当する授業数が増えたが、それによって本研究課題の遂行に大きな支障が生じたわけではなかった。以上から、本研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の文献研究、および先行研究の資料調査で明確になった調査課題を解決するために、2019年度は当初の実施計画にも記したとおり、夏季にケニアで現地調査を実施する。調査にあたっては、調査地の政情などを事前にチェックして、慎重におこなう。2019年度後半には、初年度の文献研究と夏季に実施する現地調査で収集されたデータを照らし合わせながら整理・分析し、得られた研究成果を、スポーツ人類学会等にて報告する。また国内外へ研究動向を発信するために、シンポジウム等での発表も積極的におこなう。現地調査後には、得られた研究成果について、とくに「感覚の共有や同調」とは異なる身体の在り方に注目し、『アフリカ研究』等へ共同性に関する論文を投稿する。
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