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2019 年度 実施状況報告書

世代間正義と世代内正義の接続可能性

研究課題

研究課題/領域番号 18K12616
研究機関宇都宮共和大学

研究代表者

吉良 貴之  宇都宮共和大学, シティライフ学部, 講師 (50710919)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード世代間正義 / 人口倫理 / 生殖倫理 / 非同一性問題 / クィア / 立憲主義 / 高齢者法 / 法哲学
研究実績の概要

2年目の本年度は、世代間正義に関わる英米圏の法哲学・政治哲学の議論状況を積極的に摂取するとともに、(1) 人口倫理、(2) 生殖倫理といった具体的な問題や、(3) 憲法や (4) 社会保障法に関わる実定法的含意の明確化に努めた。それぞの具体的な実績は以下の通り。
(1) 人口倫理については、Derek Parfit以降の非同一性問題について、David Booninや宇佐美誠など、最近の論者の議論を批判的に検討した。この難問が遺伝ベースの狭い同一性観によって生じている面があることを確認し、生殖や人類の存続がかかった規範的にクリティカルな問題において同一性が伸縮する事態を捉えることが、本研究の世代問題の時間的スパンを適切に切り分けることにつながると考えた。この発想は人口倫理(特にその功利主義的アプローチの検討)とともに、(2) 生殖倫理の普遍主義的前提(将来世代を存続させよというJonas的命令)の問い直しへと接続される。後者についてはLee Edelmanの「再生産的未来主義」「クィア時間論」を参照しながら、論文「将来を適切に切り分けること」(『現代思想』2019年8月号)にまとめた。
(3) 長期的不確実性下の集合的意思決定に関わる憲法上の含意については、A・ヴァーミュール『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年)を翻訳し、解説論文を執筆した。一階の具体的リスクに対応するための制度のキャパシティを全体論的に捉え、予防原則など、特定の普遍的原理に基づかせることの危険を確認した。
(4) 社会保障法的含意については、特に高齢者法(aging law)との関連で、世代内(intra-generational)問題をよく解決するための世代主体性(generational agencies)の福利条件について考察し、専門の研究会にて発表を行った(論文化予定)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

上記の研究実績の通り、各種の課題について一定の進捗があった。特に、『リスクの立憲主義』翻訳と解説論文の執筆は、本研究の実定法的含意を明確にするために大きな意義があった(2020年度には同著者の議論を参考に、公法の内在道徳についてなど、いくつかの関連論文を執筆する予定である)。他については、論文化がやや遅れているものもあるが、複数の発表を既に行っており、2020年度中には一定の成果を公表できるものと考えている。
英語圏の法哲学・政治哲学の議論状況の摂取については、継続的な文献調査を行っている。ただ、新型コロナウィルスの世界的流行の影響もあり、年度後半に予定していた海外での研究発表や現地調査を行うことはできなかった(特に予定したものとして、放射性廃棄物処理に関わる超長期的な将来世代問題と現在の民主的合意形成の関係についてのヨーロッパ諸国での調査がある)。この点についてはいまだ先行きが不透明であるが、2020年度にはオンライン参加等の方法を活用することによって、可能な限り進めていきたい。

今後の研究の推進方策

3年目の2020年度は上に記したそれぞれの課題を引き続き発展させる形で研究を進めていく。特に、(1)~(5)までの具体的問題についての考察を一定程度行うことができたので、その法理論的な一般化に向けた研究に力を注ぎたい(具体的には、長期的な将来世代問題と短期的な民主的意思決定の問題を両立させる制度構想と、その法理論的基礎の探求)。
なお、新型コロナウィルスの感染拡大により、特に海外での研究発表や現地調査に大きな支障がでている。この点については予断を許さないが、オンライン参加による代替や、文献調査の比重を高めることなどにより、研究計画の構造を大きく変えることなく対応したいと考えている。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルス感染拡大により、2020年2~3月に予定していた海外での研究発表や現地調査が不可能になった。繰越予算は、次年度の旅費・文献費にあてる。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2019 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 法律家を目指す人々に基礎法学は「すぐ」役に立つ2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 雑誌名

      法学セミナー

      巻: 2019年4月号 ページ: 9-14

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 将来を適切に切り分けること――エーデルマンの再生産的未来主義批判を念頭に2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 雑誌名

      現代思想

      巻: 2019年9月号 ページ: 138-145

  • [学会発表] Ethical Issues Surrounding Concussions in Collision Sports: An Analysis of the Responsibilities of Players, Managers, and Rule-makers2019

    • 著者名/発表者名
      Soichiro Toda, Takayuki Kira
    • 学会等名
      the 2019 IAPS Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] スポーツの価値はどのようにルール構成的か2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 学会等名
      応用哲学会
  • [学会発表] 法をクィアするために法を利用できるのか2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 学会等名
      日本女性学会
  • [学会発表] 世代や国境を超える公正・互恵性2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 学会等名
      法理学研究会
  • [学会発表] 世代間正義と再生産的未来主義:リー・エーデルマンのクィア時間論の批判的検討2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 学会等名
      愛知法理研究会
  • [学会発表] 世代間正義と高齢者法:法哲学の視点から2019

    • 著者名/発表者名
      吉良貴之
    • 学会等名
      高齢者法研究会
  • [図書] リスクの立憲主義:権力を縛るだけでなく、生かす憲法へ2019

    • 著者名/発表者名
      エイドリアン・ヴァーミュール(著)、吉良貴之(訳・解説)
    • 総ページ数
      328
    • 出版者
      勁草書房
    • ISBN
      978-4326451173
  • [備考] 吉良貴之・ウェブサイト

    • URL

      https://jj57010.web.fc2.com

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公開日: 2021-01-27  

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