研究課題/領域番号 |
18K12616
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研究機関 | 宇都宮共和大学 |
研究代表者 |
吉良 貴之 宇都宮共和大学, シティライフ学部, 講師 (50710919)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 法哲学 / 世代間正義 / 歴史的不正義 / 人工物 / 立憲主義 |
研究実績の概要 |
年度前半は主に、2019年12月に翻訳出版した、エイドリアン・ヴァーミュール(吉良貴之訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房)を素材とし、公法上の制度設計論を (1) 取り組むべきリスクの特定と、(2) それに対応する制度機関への権限配分の問題として整理した。いくつかの研究会で報告を行ったほか、論文「行政国家と行政立憲主義の法原理」『法の理論(39号)』(成文堂、2021年3月)として公刊した。 以上の公法上の制度設計論は本研究においては応用的な位置付けにあたる。世代間関係をふまえた議論との接続を急ぐ必要があるが、その一部は『下野新聞』連載のコラムで発表した。コロナウイルス感染拡大の騒動は、たとえば移動制限の影響、ワクチン接種の分配問題など、世代間の利害対立状況を明るみに出した。また、長期的な気候正義の問題としては、アメリカのパリ協定復帰の影響も精査する必要がある。本研究に関連のある時事問題・応用的問題が多く現れたのが2020年度の特徴であると考えており、その学術的意味付けは最終年度の研究まとめにとって大きな課題となった。 ほか、関連する研究として、過去世代が作った「人工物」が将来にわたって影響をもたらす場合(たとえばBLM運動における過去の差別主義者の銅像の扱いなど)に着目し、現在世代の責任を論じた。これは歴史的不正議(historical injustice)論として本研究に包摂される。その成果の一部は応用哲学会WS、The 8th International Conference on Smart Systems Engineering 2020 ほか関連研究会で発表済であり(特に後者は英語発表であり、またYouTubeで一般公開されたことから、成果発表として大きな意味があると考えている)、2021年度中に論文として公刊する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度前半は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、発表を予定していた学会・研究会のいくつかが中止になるなど、特に成果発表の面について若干の遅れが生じた。ただし、このコロナ禍によって明るみになった社会問題には、本研究が取り組んでいる世代間問題への多大な含意があり、発展させるべき課題が明確になった面もあると考えている。 実績概要に記したように、特に2020年度後半にはある程度、本研究の最終まとめに向けた地ならしができたと考えているので、計画全体に大きな影響はないと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、この3年間の研究の集大成としての成果発表に特に力を入れていく(可能な限り、英語による国際発信の機会を探る)。 短期的な世代間問題(世代内正義)については、コロナウイルス感染拡大によって明るみになった世代間格差など、アクチュアルな分配的正義の問題とも接続させながら研究を進めていく。特に世代間の互恵性(intra-generational reciprocity)の成立条件について、英語圏の論者の議論を参照しながら理論構築を進める。また、その具体的なあり方としての公法デザインについても、「行政国家」の正統性を通時的にどのように確保していくか、という観点から論じるつもりである。 長期的な世代間問題(世代間正義)については、(1)気候正義論として、今後のパリ協定レジームの可能性、いわゆる「世界人類権宣言」の思想的意義の検討を行う。またそれに加え、(2) 過去世代が作った「人工物」に対する責任のあり方、という観点からの研究を進める。具体的には、放射性廃棄物処理問題(「最終処分場」建設地の選定にかかわる超世代的民主主義の可能性など)や、戦争モニュメントや過去の指導者の像の保存(記憶の継承と断絶をめぐる歴史的正義の根拠が問題となる)などを素材とし、世代内正義と接続させる形で議論を進める。 以上のように、時間的スパンの異なる様々な世代問題を素材とすることで、各問題に対応した責任主体(世代主体性)の析出を試みる。それぞれに通底する基準を見出すことが本研究の最終的な目標となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、予定していた研究出張のいくつかが中止となったため。
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