2021年度は本研究の最終年度にあたり、研究全体の総括、研究成果の積極的公刊、および次の研究課題への接続を強く意識した。 (1) 世代問題の時間的切り分け: 本研究は世代間正義の問題を時間的幅によって切り分けることによって適切な範囲のもと考察することを主眼とする。最終年度は超長期的問題(地球環境問題、放射性廃棄物処分問題)を世代重複のない純粋な将来世代問題として位置付け、応益原則と応能原則、被服従原理と影響原理といった点から理念的整理を行った。環境問題に携わる実定法学者・法律実務家とのネットワーク構築も進め、今後のさらなる研究発展への道筋をつけた。また、世代問題の具体的な表れとして生殖・再生産の正義にも着目し、ジェンダー法に関わる論文を執筆した。 (2) 世代問題のさらなる立体化: 過去世代との関係は研究開始当初は主たる課題としていなかったが、上記の時間的切り分けという課題から不可欠と判断し、過去世代の悪事について現在世代の責任を問う「歴史的不正義」論にかかわる論文を執筆した。過去の悪事の矯正は、賠償=過去志向アプローチ、和解=将来志向アプローチというように世代問題の時間的関係をさらに立体的に把握することにつながった。 (3) 実定法学との接点として、特に本年度はアメリカ公法学の知見を積極的に摂取し、時間的幅によって切り分けられた問題ごとに適切な権限分配を行う構想への接続を試みた。また、具体的な規制手段としていわゆる「ナッジ」の意義についても考察し、たとえば長期的な想像力を育む手段としてナッジは有望か?といった論点につなげる可能性を示した。こうした試みは、法哲学と公法学、および行動科学の接続を図るという意味での学際的意義があるのみならず、公法学を総合的社会科学として構築するために世代間正義という複合的な問題が格好の素材となることを示した意義もある。
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