研究課題/領域番号 |
18K12621
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
津田 智成 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (00779598)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 無過失責任 / 国家補償法 / 損失補償 / フランス国家賠償法 / フォートによらない賠償責任 |
研究実績の概要 |
本研究は、我が国の国家補償法において一般的な無過失責任規範を構築することができないかという問題意識の下で、無過失責任規範に関する法学的な議論を先進的かつ広範に蓄積してきたフランス法の判例・学説を網羅的に渉猟することにより、その必要性、根拠論、要件論という三つの側面に着目して、ありうるあるいはあるべき解釈論ないし立法論を探究することを目的とするものである。 本年度は、当初の計画どおり、フランスにおける無過失責任規範である「フォートによらない賠償責任」の根拠論(「リスク」や「公的負担の前の平等」といった観念)と要件論(リスクの創出ないし引き受け、あるいは公的負担の前の平等の破綻を示すような異常な損害、すなわち社会生活において通常受忍すべき損害を超える特別かつ重大な損害等)について、学説や判例の研究を行った。具体的には、例えば、被害者の性質(被害者が行政による決定ないし活動の対象となる者か、第三者か)に応じて、責任規範の使い分けがなされていることなどを明らかにした(C.E. Ass. 24 juin 1949, Lecomte, Rec. 307 ; C.E. Ass. avis 6 juillet 2016, M. N… et autres, Rec. 320.)。 なお、昨年11月には、フォートによらない賠償責任に関する最新の議論等について、パリ第一大学のノルベール・フルキエ教授と意見交換を行い、有益な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記【研究実績の概要】に示したように、本年度は、当初の計画どおり、フォートによらない賠償責任の根拠論及び要件論に関する研究を進めることができた。また、当初計画にはなかったものの、フランスにおける最新の立法紹介の執筆依頼があり、その機会を通じて環境法に関する特殊な補償制度についても研究を行うことができた。したがって、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでの分析の結果を日本法に架橋する作業を行う。具体的には、これまで行ってきた比較法研究に基づき、わが国の国家賠償請求訴訟で問題となった個別の事案に沿って一般的な無過失責任規範の必要性を検討し、またそれを基礎づけるための憲法29条3項をはじめとした実定法上の根拠ないしその背後にある原理的な根拠を探究し、さらに従来損失補償の適用範囲の拡大を妨げてきた「適法要件」や「財産的損害要件」を中心に要件論の再構成を試みることにより、第一次的には一般的な無過失責任規範の構築を可能ならしめる解釈論を模索し、その限界にあっては立法論のあり方を試論的に提示する。そして、この研究成果を、学会や研究会等で報告することにより、これを外在的検証にさらし、多様な視点からフィードバックを得ることにより精緻化を図った上で、論文としてまとめ公表することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年10月より、パリ第一大学での在外研究を開始することとなり、主にフランス国家賠償法関連の資料の収集に係る費用を効率化することができ、また旅費も抑制されることとなった。これにより生じた次年度使用額については、最新の日仏国家賠償法関連の文献の購入費や、旅費に充てることとする。
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