本研究は、我が国の国家補償法において一般的な無過失責任規範を構築することができないかという問題意識の下で、無過失責任規範に関する法学的な議論を先進的かつ広範に蓄積してきたフランス法の判例・学説を網羅的に渉猟することにより、その必要性、根拠論、要件論という三つの側面に着目して、ありうるあるいはあるべき解釈論ないし立法論を探究することを目的とするものである。 本年度は、過去3年に渡って進めてきた日仏比較法研究の成果を論文としてまとめる作業を行い、「国家補償法における無過失責任規範に関する序論的考察」と題する論文を、『稲葉馨先生・亘理格先生古稀記念 行政法理論の基層と先端』(信山社・2022年)に公表した。本論文においては、まず、我が国の国家補償法における一般的な無過失責任規範の必要性を、被害者救済のための「セーフティネット」の必要性と、行政活動に対する委縮効果の防止の要請という二つの観点から論証した。また、当該責任規範の根拠論については、その実定法上の根拠に関する、一連の予防接種禍訴訟の裁判例を検討することを通して、「財産的損害」、「収用可能性」、「適法行為による意図的侵害」を構成要素とする、憲法29条3項の「伝統的損失補償観」の問題点を明らかにすることを試みた。 さらに、日仏の研究者により構成された、コロナ禍における補償の問題を研究する共同研究グループに参加し、2021年6月30日に開催されたセミナーで、コロナ禍において行われたさまざまな規制措置(飲食店等への営業規制等)によって生じた損害あるいは損失につき、国家賠償あるいは損失補償が認められうるかを、日仏の法制度を比較しつつ検討する報告を行った。本報告を基にした論文は、近日中に、フランスの電子ジャーナル『Cahiers Louis Josserand』に公表される予定である。
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