本研究の2年目は、フランス法における行政責任において、いかなる原因による減責がどのような理由にとって認められているか、探求を試みた。 この点、減責の理由は多様な形で説明されている。例えば被害者のフォート(日本法でいえば過失、違法性に近しい)については、一般に減責が認められるためには被害者の主観的な要素が必要だとされてはいるものの、その実リスクの引き受けなどという形で被害者のフォートのない減責が認められ、あるいは子の親などのフォートが減責の理由とされることがある。このことは、被害者に賠償を求める権利がないことによるとか、あるいは行政側の責任の厳格さを緩和するためであるなどと説明される。さらには第三者の行為も、特にフォート責任の場合においては減責原因とされ、それは公金の保護のためであると説明されるのが一般的である。 こうした減責原因が認められている背景には、行政責任制度が公金の支出を伴うものであるという特殊性と、その責任制度自体の理解の変化があるように伺われる。すなわち、フランス法における行政責任も、基本的にははフォートに基づいた責任であり、この点では行政としての行為規範を逸脱しなければ公金の支出も免れることにはなる。ところがフォートなき責任の出現に伴って責任制度自体が拡張したことにより、規範違反による制裁というよりも被害者の保護という形で賠償が認められるようになり、その分公金のも支出されやすくなりうる。周知の通り、フランス法における行政責任はいわば判例法によるものであり、それがゆえにフォート責任とフォートなき責任とで制度上は混然としているとも言える。この点をいかに調整するかという点で、現在の民事責任に比べて、やや幅広いとも言える減責制度の運用がなされているものとも考えられる。
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