研究課題/領域番号 |
18K12624
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
土井 翼 一橋大学, 大学院法学研究科, 講師 (20734742)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 対物処分 / 一般処分 / 行政行為 |
研究実績の概要 |
行政行為における「物の層」と題するこの研究では,個別主体への排他的帰属が観念できない不可分的利益の規律,すなわち,行政作用の対象を名宛人/第三者という二分法で把握することが困難な領域に行為論の観点からアプローチすることを目的としている。そのために,(a) そもそも行為の名宛人が存在しないために名宛人/第三者という二分論が原理的に成立しえない行為(いわゆる一般処分,対物処分が典型である)の理論的検討をまずおこない,(b)そこで得られた成果を名宛人が存在する行為に応用するという目標を設定した。当初の計画では,平成30年度は(a)の作業を実施することとしていた。 この点,(a)に関しては,19世紀末から20世紀初頭にかけてのフランス・ドイツにおける行政行為概念の形成史を古典的文献を再読することにより解き明かし,権利の概念が行政行為概念の標識とされるに至った経緯を示すことを目指した。そして,その作業の結果として,「名宛人なき行政行為の法的構造(1)(2・未完)」と題する論文を公表した。そこでは,日本における行政行為概念の形成史を,従来それほど注目されてこなかった特定の者を名宛人としない行政行為がどのように概念構成されてきたのかという観点から論ずることで,一定の知見を得た。 なお,公表は翌年度となるが,既に同論文についてはドイツ法とフランス法の議論につき扱う(3),(4)及び(5)を脱稿している。そこでは,日本法の「母法」とみうるドイツ法において対物行為の概念が放擲された経緯,フランスにおいて対物行為の概念を行政行為概念の中心に据える法的構成が存在したことにつき論じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画によれば,平成30年度には日独仏の行政行為概念の形成史をたどり,比較検討をおこなう予定であった。この点については,一部の公表は翌年度にもちこされたものの,形成史をたどる作業自体はほぼ完結させることができた。これらの比較検証,日本法の議論への示唆を得る作業はなお継続中であるが,以上の次第で,研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度(令和元年度)は,(a) そもそも行為の名宛人が存在しないために名宛人/第三者という二分論が原理的に成立しえない行為(いわゆる一般処分,対物処分が典型である)の理論的検討をまずおこない,(b)そこで得られた成果を名宛人が存在する行為に応用するという目標のうち,(a)の積み残しである日独仏の学説の比較対象の作業をおこないつつ,(b)の作業を進めたい。考察対象としては警察法及び公務員法を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度内に刊行予定で予約注文をしていた外国書籍2冊の刊行が遅れたために次年度使用額が生じた。繰越分については当該書籍を購入するために使用する。
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