研究課題/領域番号 |
18K12624
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
土井 翼 一橋大学, 大学院法学研究科, 講師 (20734742)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 行政行為 / 物の法 / 占有 |
研究実績の概要 |
令和元年度の最大の成果は,「名宛人なき行政行為の法的構造――行政法と物の法,序論的考察」と題する連載論文を完結させたことにある(連載第3~6回が今年度のもの)。第3回から第6回途中まででは,ドイツ法及びフランス法において,特定の名宛人の存在しない行政行為に関する概念構成がどのように成り立っているのかを一般処分と対物処分とを切り口として論じた。行政法学は基本的に行政と私人との法的関係を主たる関心に据えてきたが,行政と物との関係にかかる法学的考察について一定の分析視角を定立しえたと考える。とりわけ,占有概念を基軸として対人行為も対物行為に還元することで体系的な考察を行うMaurice Hauriouの行政行為概念を一つの像として描いた点が重要であった。第6回後半は,それまでの検討を踏まえて日本法に議論を還流する際の一定の視座を提示した(が,それにとどまる)。 「名宛人なき~」論文で得られた,行政行為と占有との関係という視座に立脚して執筆したのが,許可制度を権原に対する規律と占有に対する規律とで区別する「許可制度の法学的再構成」である。短編ではあるが,上記論文を踏まえなければ示すことのできない新しい視点を示しえたと考える。 また,依頼を受けて執筆した「O-157集団食中毒公表事件」も,それ自体としては学生向けの解説であるが故に学問的寄与は大きくないが,事実的行政作用に関する考察をすすめる契機となった。同論文に基づく応用編を令和2年度に公表予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画によれば,令和元年度は占有概念に立脚した行政行為概念と実定法との整合性につき,個別法的検討を実施することとされていた。当初は公物法,警察法及び公務員法を検討対象とする予定であったが,研究実績の概要に記したように,検討対象は公物法,警察法(許可制度)及び情報法(公表制度)に変更した。変更の理由は,執筆依頼という外在的な理由によるものではあるが,公表制度を名誉概念との関係で把握するという視座が得られたところ,名誉概念と占有概念との親近性に照らせば,結果的には当初の構想に適合的な研究が進展したことになる。また,公表には至っていないが,公物法についても研究を進めており,令和2年度には業績の公表を予定している。 したがって,予定の変更を伴いつつも,研究はおおむね順調に進展していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究予定に従い,行政訴訟ドグマーティク再構成の可能性につき検討する。とりわけ,ドイツにおける行政訴訟の「客観化」の傾向とフランスにおける越権訴訟の「主観化」を,EU法の動向も視野に入れつつ整序し,一定の理論的示唆を獲得することを目指す。そのために,研究会報告も既に予定している。 ただし,今般のコロナ禍により外国語文献へのアクセスがかなり制約されると同時に,研究会の開催中止も想定される。こうした制約が長期化した場合には,インターネット上で資料を入手可能な20世紀前半の学説史研究や日本法内在的な議論に対象を変更することもありうる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
必要な書籍を逐次購入したところ,新規書籍購入費としては不足する金額が残額として生じたため。残額は令和2年度請求分とあわせて,主として書籍購入費,旅費に充てる。 ただし,新型コロナウイルスの世界的流行の収束状況次第では海外における調査が実質的に不可能となりうるため,旅費については令和元年度と同様に支出しないこともありうる。その場合には,書籍のうち洋書を購入する費用を当初計画よりも上乗せする。
|