本研究の最終年たる令和2年度には,権利とは異なる基礎に立脚する行政作用について実体法的考察を行った。当初の研究計画では独仏の訴訟法を分析する予定であったが,Covid-19の流行により渡欧が困難になったため,日本の実体法の分析に注力した。 具体的には,令和元年度に公表したO-157集団食中毒原因公表事件の解説を手掛かりとして,名誉という特殊な法益に関わる行政作用について重点的に研究した。前年度からの関心を敷衍したものではあるが,Covid-19対策のための行政機関による公表に社会的な注目が集まったこともあり,期せずして時宜に適ったテーマに取り組むこととなった。内容的には,公表に関する法律の留保論及び国家賠償請求訴訟における違法性判断基準論に関する従来の学説を解体・再構成し,民法学及び憲法学の知見に照らして正当化された一般的基準を提示した。 また,公的主体による公表の適法性が争われた最高裁判例の検討を通じて,地方議会の行為の裁判所による統制について一般的な議論を展開した。当初の計画とは異なる側面からではあるが,こちらも地方議会関係判例の60年ぶりの判例変更という時流にも触発され,従来は具体的検討の必要性が抽象的にのみ説かれ,実際に具体的な議論は詰めてこられなかった分野につき,具体的な訴訟法的考察をなしえた。 さらに,本研究の集大成として,平成30年度になした一般処分及び対物処分に関する考察及び令和元年度になした実体法の仕組みに関する考察を単著のかたちで仕上げ,出版社に提出した。その作業に際して,令和元年度までに公表した名宛人なき行政行為に関する日独仏の学説分析にも解体修理を施し,読解の精度を高めた。これは既発表の原稿をまとめるにとどまらず,そこでの検討の理路をより明晰かつ正当化されたものへと彫琢するものとなっている。
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