研究課題
最終年度となった2022年度は、「勤労権・生存権・福祉国家:戦後日本における憲法的福祉国家実現の系譜」法律時報94巻5号44頁(2022年)を公表した。本論文は、日本における戦後占領期の経済改革から事業規制を通じた小売商店の保護政策とそれに対する最高裁判例の立場を再検討し、日本における独自の憲法的福祉国家の在り方を論じたものである。本論文の基本的視点は、福祉国家実現というアジェンダにおいて、失業後のセーフティーネットによる再分配に重きを置く発想と失業前の就業の安定に重きを置く発想があるということである。そして、本論文は、勤労権を保障する日本国憲法の福祉国家的理想は、むしろ、後者の発想に依拠したものであり、農地改革や財閥解体などの戦後経済改革、労働者の権利を保護するための労働立法、零細的小売事業者を保護するための各種事業者法の制定などの諸政策は、そのような福祉国家的理想に資するものであること、そして、最高裁の憲法法理もそのような施策の合憲性を承認してきたことを論じた。また、本論文では、結論として、プラットフォーム・エコノミーの到来とともに個人事業主の労働は不安定化しており、これまでの日本の福祉国家実現の系譜に沿おうとするのであれば、いわゆるクラウドワーカーを保護する立法も憲法的福祉国家的理想の追求のために必要となるという提言を行っている。本研究は、出発点としては、富の集中・経済的支配力の集中と憲法的価値の関係を主に問題関心としたが、研究が進むにつれて、経済構造全般と憲法的価値の関係の探求へと対象が広がっていった。その結果、芸能事務所の寡占問題やプラットフォームの寡占問題、さらに、個人事業主保護の憲法的意義など、多種多様な問題に関して実践的な提言を含む成果をあげることができた。
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The Architecture of Constitutional Amendments: History, Law, Politics, Richard Albert (ed) (Hart Publishing 2023)
巻: 1 ページ: 89-104
10.5040/9781509959112.ch-006
法律時報
巻: 94 (5) ページ: 44-50