本年度は研究期間の最終年度である。本研究では、これまでの租税法学が区分してきた「純粋な任意調査」及び間接強制による任意調査である質問検査権の行使という大きな区分についての限界を意識し、租税法体系の中における、行政調査としての広義の意義における「税務調査」概念を措定し、現実に行われている多様なソフトな税務調査について、いかなる法的統制を及ぼしてくかについての研究を行った。 1.税務官庁による何らかの処分に至る流れとしては、Ⅰ税務情報収集(納税者による確定申告、各種の法定調書、匿名通報など)→Ⅱ税務当局による各種情報の分析(調査対象者の選定)→Ⅲ税務当局による税務調査(質問検査権)の実施という各フェイズを経るが、そのいずれのフェイズにおいても「純粋な任意調査」概念に包摂しえない調査が行われていることを確認した。 2.「純粋な任意調査」概念に包摂されない「秘匿型・密行型の任意調査」を抽出して、一般的税務調査権限を措定した上で、その法的統制についての問題点を検討した。情報収集活動自体の統制とともに、プライバシー情報が、税務官庁に集積されていくことで生じ得る基本的人権の制約という視点が今後の税務行政活動において重要であることを確認した。 3.上記で示した調査対象者の選定段階で行われる「純粋な任意調査」だけでなく、質問検査権の行使の際に行われる、対象者の同意を得た上での立入り・捜索などについて、質問検査権の行使の一環として行うことは租税法律主義の観点から問題があることを確認した。予測可能性についての制度的担保が進展する現状において、租税法律主義の自由主義的側面ではなく、その民主主義的側面に目を向ける必要がある。
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