研究課題/領域番号 |
18K12630
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
梶原 健佑 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (40510227)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヘイトスピーチ |
研究実績の概要 |
2019年度は以下の研究を行った。 第1に、ヘイトスピーチに対する事後的な責任追及手段の1つである不法行為責任に関して、裁判例と学説の状況をとりまとめ、短い論文として公表した。差止め請求において求められる「保全の必要性」を検討する上では、事後の民事訴訟による救済の可能性を確かめておくことは極めて重要な作業である。 第2に、選挙キャンペーン期間中の虚偽言論に対する差止め請求(裁判所)と行政機関による対処策および憲法適合性に関して、日米の法状況を検討した。こちらも論文2篇にまとめられている。この研究はヘイトスピーチ、ヘイトデモを直接検討するものではないが、社会的な弊害をもたらす表現に対して、事後的な裁判を待たずに行われる非刑事のアプローチの許容性ついて示唆を得ることを期待して行われた。ちなみに、この研究は「虚偽言論規制の可能性を探るという点」、「思想の自由市場による淘汰を待っていられない緊急性がある場合の言論規制の許容性・制度設計を検討する点」において、2018年度に行った災害時のヘイトデマ規制の憲法適合性に関する考察の延長線上に位置づけられ得る。特に後者の観点が本研究課題にとって意義を有する。 第3に、ヘイトスピーチ法制と憲法による表現の自由保障との関係について、概括的な整理を試みる原稿を執筆した(2020年度中に公表予定)。ヘイトスピーチ法制に関する応用研究である本研究を推進していく上で、一度、原理的な考察に立ち戻る機会を得たことは、貴重なことであった。 第4に、以上の研究結果も踏まえつつ、本研究課題の本筋であるところの、ヘイトスピーチに対する差止め請求の可否・許容条件につきして、日米の判例・裁判例を手掛かりに論じる論説の執筆に着手した。最終年度である2020年度中の脱稿・公表を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を進める過程で有効な比較の素材となる法制度を発見し、これに研究時間を割く等したため、当初の研究計画から内容を一部変更したり、考察の順序を若干前後させたりしているものの、本研究課題の中心であるヘイトデモへの差止め請求の「有効性」と「事前抑制該当性」に関する考察は、3年の助成期間内に一定の結論に到達できる見込みを持っている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2020年度は、助成期間内に研究成果を取りまとめることを常に意識して、研究を継続する。本年度も、ヘイトスピーチ法制を専門とする研究者たちとの情報交換等が、自身の研究を進める上で有用であった。引き続き、情報交換と意見交換の機会を得るよう努めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集のための海外出張を計画していたが、それを年度内に果たせなかったことが、残額が生じた主な理由である。年度内に購入し損ねた高額の洋書を購入したり、研究の進展・総括のために必要と考えられる国内外への出張をしたりして、最終年度である2020年度内に、当該年度の助成金と合わせて適切に使用する計画としている。
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