研究課題/領域番号 |
18K12631
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
児玉 弘 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (30758058)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 行政法学 / ドイツ行政法学 / 行政行為論 / 行政手続論 / 行政訴訟論 / 行政手続の再開 / 義務付け訴訟 / 法と時間 |
研究実績の概要 |
本研究は、いったん行政活動がなされた以後に、法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について、《行政の安定性・継続性》を担保しつつ、市民の権利を実効的に保障する行政法解釈の指針を提供する理論構築を目指す試みである。とくに、個別法に散見される時間の経過にともなう諸状態の変化に対応する法規定を《行政活動の適時性》を実現する一般的な法制度として設計するための理論的見通しを示すことを目標としている。 令和元年度においても、前年度に引き続き、個別法ないし個別事案について、法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について検討を行った。具体的には、(1)大規模公共事業、(2)原子力発電所の許認可・操業といった局面を念頭に置いて、時間の経過にともなう法・事実状態の変化によって、当初の行政活動に対して、理論的・制度的な意味でどのような影響があるのか(ありうるのか)を検討し、それぞれの個別法ないし個別事業における特質を考察した。 (1)については、とりわけ諫早湾干拓事業を素材にして研究を進めた。当該事業をめぐっては、開門義務づけ判決がすでに確定しているところ、国が当該確定判決以後に発生した事由を異議事由として請求異議の訴えを提起しているが、最判令和元年9月13日によって最高裁判所の判断が示された。諫早湾干拓紛争をめぐる一連の裁判のなかで最高裁判所が判断を示した例は多くなく、また、確定判決以後に発生した事由が請求異議事由となりうるかという点で、本研究にとって興味深い事例であり、当該最高裁判例の分析を行った。 (2)については、とりわけ東京電力福島第一原子力発電所事故国家賠償請求訴訟を素材にして研究を進めた。令和元年度においては、これを台湾の研究者と検討する機会をもった。本研究が比較対象とするドイツ法を共通の母法とする台湾行政法の観点からの知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度においては、当初計画していた、個別法ないし個別事案において、時間の経過にともなう法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について、大規模公共事業、原子力発電所の許認可・操業といった局面を素材にして、かなり突っ込んだ理論的・制度的な検討を行い、それを論文としてまとめ、公表するなど、一定の成果をあげることができた。また、当初計画にはなかった、台湾の研究者との意見交換の機会を持つことができ、本研究の国際的射程を一定程度拡大することができた。 しかしながら、当初令和元年度末に計画していたドイツ法に関する検討(訪独しての現地調査)は、新型コロナウイルス感染症の国際的な感染拡大を受けて延期せざるをえなかった。 このように、日本法の検討については、当初の計画を超える程度で順調に進展しており、かつ、ドイツ法を共通の母法とする台湾法の研究者との意見交換の機会を有した点で、本研究は順調に進展しているといえるが、ドイツ法の検討については、当初の計画からやや遅れ気味であることを総合的に考慮して、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度(=研究最終年度)においては、以下の3点が重点的な課題である。 第1に、新型コロナウイルス感染症の国際的な感染拡大のために、令和元年度の課題であったものの積み残しとなっている、これまでの文献調査による考察・検討によって生じた問題点についてのインタビュー調査・実地調査を行う。とくにドイツ法に関する議論については、現地調査の計画を進め、現地調査を実現させたい。もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染状況によっては、実際にドイツに赴いての調査は困難であるため、オンライン会議システムの利活用も検討する。 第2に、時間の経過にともなう法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について、とりわけ行政訴訟の局面において、どのような理論的な影響がありうるのかを個別法ないし個別事案をもとにして検討を行う(念頭に置いているのは、これまでの検討の積み重ねがある、大規模公共事業および原子力発電所の許認可・操業である)。なお、その際には、日本法およびドイツ法を相互に比較対照させつつ、個別法ないし個別事案の特質をも勘案する。また、すでに検討を行っている行政手続の局面における議論およびドイツ法を母法とする点で日本法と共通する台湾法における議論も適切にフォローアップする。 第3に、これまでの研究成果のとりまとめを行い、いったん行政活動がなされた以後に、法・事実状態の変化があった場合における当該行政活動のあり方について、《行政の安定性・継続性》を担保しつつ、市民の権利を実効的に保障する行政法解釈の指針を提供する理論構築を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(1)購入を予定していたドイツ語文献の出版が遅れたために物品費の執行に遅れが生じた。これについては、令和2年度中の出版が見込まれるために、同年度中に物品費として執行する予定である。 (2)予定していた国内外の出張について、新型コロナウイルス感染症の国際的な感染拡大を受けて、延期したために旅費の執行に遅れが生じた。これについては、令和2年度中に、調査旅費および研究成果発表旅費として執行を予定している。
|
備考 |
新聞等のメディアにおいても積極的に情報発信を行った。 佐賀新聞2019年4月28日・6月9日・6月22日・7月21日・8月7日・9月1日・9月14日・10月13日・11月24日・2020年2月20日・3月24日/朝日新聞2019年5月31日・2020年3月19日/西日本新聞2019年9月14日/サガテレビ2019年7月18日
|