研究課題/領域番号 |
18K12633
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
山本 真敬 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (70734747)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 違憲の主観化 / 判決類型 / 判決手法 / 立法者の努力 / 立法裁量 |
研究実績の概要 |
2019年度は,研究計画のうち,(1)「判決類型(判決形式)」の論点の検討と(2)2018年度に提出した博士学位論文をベースに公刊のための更なる検討を行った。 (1)については,「1票の較差」に係る近時の最高裁判例を分析し,合憲・違憲状態・違憲有効(事情判決の法理)・違憲無効という判決の類型を整理した上で,従来に見られなかった合憲と違憲状態の間で立法者の「努力」が評価されているように見える点について検討を行った。従来とは異なり合憲と違憲状態の間でも立法者の努力を考慮する(しかも立法者に有利にのみ考慮する)ことは違憲状態と違憲有効の間の議論と機能的に重複していると既に指摘されているところ,立法者の努力と理解しない可能性を指摘した。他方で,違憲状態判決にも是正の義務を付した最高裁判決の特殊な判決効を理論上どう位置づけるのかという問題や,立法者の「取組」として最高裁がさまざまな要素を立法者に有利なようにのみ考慮する問題があることにつき検討を加えた(拙稿「投票価値較差訴訟の諸論点」法律時報91巻5号)。なお,「1票の較差」をこえて,判例における判決類型論の分析を行った論文も執筆したが,公刊は2020年度になされる予定である。 (2)については,博士学位論文の諸テーマのうち,法律の合憲性審査において立法者の「努力」を評価すること(「違憲の主観化」)について,博士学位論文における検討をさらに深めた。検討において,「違憲の主観化」といっても,憲法の規範内容と法律の規範内容の矛盾それ自体を立法者の努力により判断するタイプと,当該矛盾がある場合に(それは別途実体的に判断される),立法者の努力の存在が当該矛盾の効果を失わせるというタイプを明確に区別して整理する必要があると考えるに至ったが,比較法的見地からの理論的分析を目下行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画では,(ア)実体的統制と「手続」的手法―特に立法者の「行為」を統制する手法―の適切な役割分担を行い,(イ)実体的統制と「手続」的手法との2側面から立法裁量の実効的な統制を図るための枠組みを検討することになっていた。予定では,2019年度は判決類型の分析を行うことと同時に,博士学位論文を見直したうえで公刊の道筋をつけるはずであった。しかし,前者について日本の最高裁判例の分析を行うことはなし得たが,特に後者については,勤務校における校務の集中による多忙のため,比較法的な分析を行う充分な時間を取ることができなかったからである。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては,まず,博士学位論文の更なる検討を行い,その成果を公刊することに尽力したい。博士学位論文については,上記のとおり2019年度も或る程度の検討を行ってきたが,充分にその成果を形にするまでには至らなかった。博士学位論文をベースにしつつ,「違憲の主観化」の上記2類型について更なる検討を加えることで,実体的統制と「手続」的統制の役割分担とそれによる立法裁量の統制の枠組みにつき,一定の分析を行うべく尽力したい。もっとも,2019年末から生じた新型コロナウイルス感染症の流行との関係で研究環境につき大きな変動が生じているところであるが,充分な研究時間を確保するべく可能な限りの努力は行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は校務(入試副委員長・教務副委員長)が重なり,また校務の性格上,長期休暇に校務が重なり,予定していた外国出張も困難になったので,その分の費用が使用できなかった。それにより次年度使用額が生じた。2020年度は大学の異動もあり,大学の研究費が少なくなる関係で,科研費の使用額が大幅に増える見込みである。もっとも,新型コロナウイルス感染症の流行のため,国内・国外出張等が当面不能になるなど研究計画に大幅な変動が生じる恐れがある。
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