本研究は、権力分立における行政と司法の対等な地位を前提に、行政のみならず司法による法形成の特徴・意義をふまえて、行政の裁判的統制に関する新たな理論を構築することを目的としている。研究期間中、コロナ禍や一身上の都合により、計画の一部に支障が生じた。そこで、研究期間を一年延長し、延長期間にあたる本年度は、遅延していた計画を進めることとした。 具体的には、専門的知見を要する行政決定に対する裁判所の審査のあり方に関して、日独比較研究を行った。この研究は、前々年度にドイツで行った日本の専門技術的裁量に関する報告及び前年度に公表した論文の、対をなすものと位置づけられる。このテーマに関しては、既に膨大な研究の蓄積があるが、本研究は、特に事実認定に対する裁判所の審査のあり方という観点から、問題に取組んだ。その結果、次のような興味深い成果が得られた。すなわち、ドイツにおいては職権探知主義がとられ、事実認定に対して裁判所は完全な審査を行うものとされているが、事実認定の捉え方に関しては、様々な見解が主張されている。つまり、それは伝統的には客観的な認識作用と考えられてきたが、今日では裁判所による創造作用とする説が有力に主張されている、ということである。後者は、本研究が課題として取組んできた司法的法形成の考え方に基づいており、それが行政訴訟の事実認定にも浸透していることを示しているといえる。この点に関して、2021年11月に研究会で報告し、その後論文を執筆した。
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