研究課題/領域番号 |
18K12638
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研究機関 | 名古屋経済大学 |
研究代表者 |
山田 麻未 名古屋経済大学, 法学部, 准教授 (80782250)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 租税法 / 費用控除 / 所得税法 / 必要経費 / 家事費・家事関連費 / 消費支出 |
研究実績の概要 |
本研究は、クラウドやテレワークなどのIT技術の導入により多様化した個人の働き方に対応した税制度の構築を目的として、勤労性所得に対する適正な課税のあり方について、所得課税と費用控除の両面から検討し、公平で中立的な勤労性所得の課税のあり方を明らかにすることを目指すものである。 本研究の初年度にあたる平成30年度は、研究計画に従い、アメリカの内国歳入法典§274の定める交際費課税制度の仕組みや制度が導入された経緯や歴史的背景、導入後の改正内容やその趣旨、また先行研究において同制度がどのような評価を受けているかを調査した。また、得られた知見を、共働き世帯が負担する保育費(勤労保育費)にあてはめ、勤労保育費は包括的所得概念のもとでは理論的に課税すべき消費に該当するといえるか、交際費に含まれる消費と勤労保育費に含まれる消費に大きな違いがあるかについて検討した。 また、費用控除の要件としての「直接の関連」と消費の存在の関係について検討した。たとえば、アメリカの事例であるが、食費を費用控除できるかが問題となったGreen v. Commissioner, 74 T.C. 1229では、食費が基本的には個人消費のための支出であるものの、その一部は事業活動と直接の関連があるとして、食費の一部について控除が認められた。個人消費のための支出であっても費用控除が認められた事案を調査し、「直接の関連」が果たす役割について検討した。 日本においても、従来、必要経費控除の要件として「直接の関連」が要求されていたが、東京高判平成24年9月19日は不要と判断していた。しかしその後も、依然として「直接の関連」を要求する判例があることを確認した。そこで、必要経費控除の可否が争いとなったこれまでの判例を広く検討対象として、所得税法37条1項の要件として「直接の関連」が実際に果たす役割について調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、アメリカにおける交際費課税制度のあり方について基礎的な研究を行うことができた。また、そこで得られた知見を、勤労保育費という別の費用に当てはめて研究することで、支出に含まれる消費の把握の仕方や課税の方法について考察を深めることができた。 これらの研究を通じて、費目ごとに費用控除の可否がどのように根拠づけられているのか、その際に「消費」の有無はどのように把握され、費用控除の可否の判断にどのような影響を与えているのかを確認することができた。また、費用控除のあり方が納税者の行動選択に及ぼす影響や、納税者が感じる税負担の不平等感についても確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、平成30年度に引き続き、所得獲得に必要な費用に含まれる消費についての基礎的な検討を行うことを予定している。すなわち、ある支出が、所得獲得に必要な費用か、それとも飲食や子育てなど人としての生活にに必要な個人的支出かという対立の構図は、交際費や勤労保育費に限られない。これら以外の費用についても引き続き検討を行い、費用に付随する消費の把握の仕方や課税の方法について調査する。 また、フリンジ・ベネフィットについての調査検討も進めて、所得課税の側面から消費の検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月にアメリカ現地調査に関する研究打合わせと研究会への参加を行う予定であったが、日程の調整がつかなかったため、次年度使用額が生じた。 アメリカでの現地調査は別日程で行うことを予定している。また、東京における研究会発表を行う。
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