本年度は本研究の最終年度であった。本年度においては、まず日本における必要経費該当性が問題となった判例の状況について、整理を行った。そのうち、所得税法37条1項の必要経費控除の要件として「直接の関連」ではなく「合理的な関連」を要求した、大阪地判平成30年4月19日(税資268号順号13144)について判例研究を行い、税法学582号に公表した。この判例研究では、主として所得税法37条1項の必要性要件の内容を検討するとともに、過去の判例において、適正金額を超えた高額な支払いをした場合に、同族会社の行為計算否認規定(所得税法157条1項)を使って必要経費該当性を否定した判例がいくつかあることを確認した。また、この判例研究の執筆過程を通じて、日本における所得税法37条1項の要求する関連性の程度について判例を調査し、必要経費の範囲については、関連性を示す具体的な証拠の存在の有無が重要であることを確認した。 本研究の目的のひとつは、多様化する働き方を背景として、日本の所得税法における勤労性所得にかかる費用控除のあり方を見直し、中立で公平な課税制度の構築に関する示唆を得ることにある。そこで、費用のうち減価償却費の取扱いについて知見を深めるため、相続により取得した減価償却資産の耐用年数に関して問題となった、大阪高判平成26年10月30日(税資264号順号12558)の判例研究を行い、税研208号に公表した。 この他、アメリカでは、2017年税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act of 2017)により、内国歳入法典274条が改正され、交際費の費用控除のルールが大きく変わったが、このルール変更の内容および274条とフリンジベネフィットについて規定する132条の関係について調査した。
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