本研究課題は、情報通信技術の発達が、貨幣、主権国家及び金融機関といった既存の制度を前提としない取引、決済及び支払手段を生み出していることを踏まえ、これらが租税行政に必要な情報取得にもたらす課題を明らかにすることを目的とするものである。補助事業期間の最終年度である2022年度は、これまでの研究を取りまとめるために通貨の匿名性に限られない、貨幣制度と租税制度の関係について検討を行った。具体的には、コンピュータサイエンスの研究成果によって生じ得る長期的な社会の変化を想定して、それが租税法にもたらすインパクトを思考実験的に考察した。その際に、所得課税をはじめとする現行税制が前提とする貨幣制度がこの社会の変化によってどのような変容を迫られるのかに着目した。コンピュータサイエンスに関連する技術の進展は、サイバー空間とフィジカル空間を一体化し、取引記録に基づいた既存の貨幣によらない資源配分を実現する可能性がある。このとき、価値尺度としての機能を実質的に有する交換媒体としての貨幣はなくなり、所得を貨幣価値で現して課税する所得課税を維持することは難しくなる。もっとも、これは同時にどのような場合に今後も所得課税を維持することができるかを示唆していることを示した。さらに、本研究課題は最終的にはこのような長期的な課題を検討したが、このような長期的な課題を踏まえた現実の暗号資産の取引などの課税関係を検討する必要性も明らかにした。
|