研究課題/領域番号 |
18K12641
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 雄大 東北大学, 法学研究科, 助教 (70802221)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 難民 / 国民 / 無国籍者 / 移民 / 戦間期 / 国際法 / 国籍 / 国際移動 |
研究実績の概要 |
初年度である本年度は、本研究課題採択以前の研究成果(国際法における難民の地位の歴史的形成過程に関する研究)を基に、戦間期に時間的範囲を限定し、隣接諸分野へと視野を拡張して、実証的研究を行う第一歩を踏み出した。具体的には、戦間期の次の4つの議論の文脈を特定し、その一部の研究を開始した。①戦間期に展開された国民性=国籍に関する国際規範の形成に向けた政府間・学者間の議論、②第一次大戦講和条約における国民性=国籍の規律に関する学説上の議論、③難民の地位と無国籍者の地位との異同に関する学説上の議論、④出移民国と入移民国との間の政府間交渉。 公表の実績としては、まず、初年度の研究成果の一部を九州国際法学会例会の場で報告の機会を頂戴し、今後の研究のために極めて有益な御意見・御批判を頂いた。その際、特に、上記の②と③を取り上げ、「難民の地位」概念の構成における「国民性=国籍」概念の中心性と不確定性を論じた。報告後は、特に、歴史的事象を扱うための堅固な方法論という一般的レベルで自らの研究を反省する機会を頂いた。 また、年刊雑誌『難民研究ジャーナル』に寄稿した論文では、歴史的研究を踏まえて得た認識枠組(特に、地位statusの確定と身分statusの解放との相剋)を、現代の国際法に関する事案の解釈に応用した。具体的には、バルカン半島の国家承継や武力紛争を経て(国籍と在留資格を含む)地位を次第に不安定化させたクロアチア在住のアルバニア難民の事案を詳細に検討し、現代国際法において地位の安定性如何が一つの法的論点として認識され始めていること、その法的根拠が厳密には人権理念との間に抵触を生じる可能性を孕むことを論じた。 以上の概要は、今日の国家の成員資格に関する法的規律の基底的論拠を検討するための一歩であり、今後のさらなる研究の基礎を構成し、一貫した継続を必要としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題採択以前の研究成果(国際法における難民の地位の歴史的形成過程に関する研究)を基に、戦間期に時間的範囲を限定した上で、隣接諸分野へと視野を拡張し、取り上げられるべき議論の文脈として、①戦間期に展開された国民性=国籍に関する国際規範の形成に向けた政府間・学者間の議論、②第一次大戦講和条約における国民性=国籍の規律に関する学説上の議論、③難民の地位と無国籍者の地位との異同に関する学説上の議論、④出移民国と入移民国との間の政府間交渉を特定した。 現時点では上記①~④を本研究課題の構成要素の全体であると考えており、現在まで、②と③の分析・検討をそれぞれの8割程度まで完了することができた。その際、「研究実績の概要」に述べた報告・公表を除くほか、研究申請調書に構想した通り、スカイプを通じた「国籍とシティズンシップに関する研究会」をおよそ3週に1度のペースで定期的に開催し、長時間に亘り(各回約4時間)関連する論文を読み、議論を交わすことができた。同研究会の参加者は、本報告の執筆者自身の専門分野である国際法学に限定されず、憲法学や政治哲学、社会学の専門家を含んでおり、多角的・学際的に本研究課題に含まれる諸論点に取り組むことができた。本研究課題に含まれる諸論点の性質も、そうした多角的・学際的な取り組みを求めるものであった。 具体的には、同研究会の論題には、国家の成員資格の生得(生地主義jus soli/血統主義jus sanguinis)の基底的論拠の探究や、それらと生得によらない国家の成員資格(jus educationisやjus laboris、jus nexi等)との比較検討、国家の成員資格と社会契約論やデモクラシーとの間の親和性の分析が含まれる。その詳細は、今年度中に公表するに至らなかったものの、研究課題全体の公表に向けた大きな成果を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、当初の計画通り、本研究課題採択以前の成果から採択以後に拡張した隣接諸分野に関する実証的研究の成果を踏まえ、戦間期における難民の地位と(本研究課題採択以後の研究成果である)隣接諸分野との間の有機的な総合を試みるため、現在までの要収集文献の再整理を基に、フランスおよびスイスを訪問し、戦間期国際法における国民、難民、無国籍者に関して、新たに意義を見出した未収集の文献を収集する。戦間期の史料には日本国内では入手困難なものも少なくなく、こうした作業が必要であるためである。 外国での関連資料収集を開始すると同時に、本研究課題全体の反省的再構成を継続して行う。そのための具体的な作業として、特に初年度までに進めた研究の部分的な公表を目指す。初年度までに進めた研究では、今日ではほとんど忘却されている幅広い構想を包摂した国家の成員資格に関する戦間期の国際法の議論の一端が見出された。それらが同じ国家の成員資格に関するものと想定される今日の国際法の規律との間でどのように/なぜ断絶しているのかにかかわる方法論的視座の設定に注意を払いながら、まず、当時の議論の全体的構成を全体的に明らかにすることを目指して研究を深めたい。 今日ではもっぱら技術的な問題として認識されている国家の成員資格は、戦間期当時、各国の国家体制のみならず、多様な諸国家から構成される国際秩序全体がいかに形成されるのかにかかわる重要な論点であった。その形成を規律する際に決定的に重要となる要素は、各国家の領域=「空間」に加え、(生得や親族関係の連続的系譜の擬制と遡行不可能性、領主・領民間の保護服従契約、真正連関の真正性等にかかわる)「時間」であったと推察される。それらの全体を正確に言語化し、公表に向けた準備を進めることを、本研究課題の今後の推進方策として計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画調書に計画した通り、本研究課題採択以前の成果から採択以後に拡張した隣接諸分野に関する実証的研究の成果を踏まえ、戦間期における難民の地位と(本研究課題採択以後の研究成果である)隣接諸分野との間の有機的な総合を試みるため、特に、今年度は、現在までの要収集文献の再整理を基にフランスおよびスイスに訪問し、戦間期国際法における国民、難民、無国籍者に関して、新たに意義を見出した未収集の文献を収集するためである。戦間期の史料には日本国内では入手困難なものも少なくなく、こうした作業は不可欠である。 外国における関連資料収集を開始すると同時に、本研究課題全体の反省的再構成を継続し、初年度までに進めた研究の部分的な公表を行うため、そのために国内で入手可能な文献を購入する必要も残る。歴史的事象を扱う本研究課題にとって、文献資料の入手は研究の質を決定的に左右し、また、不可欠である。 そのほか、国内を移動して研究会や学会に参加し、意見・情報の交換や批判を通じて本研究課題を深化させるための旅費が必要である。歴史的事象を扱う文献資料の読解を中心とした研究とはいえ、現代社会への寄与を目的としており、そのための手段として、他の研究者を含め、研究室に籠もっていては出会うことができない多様な人々との交流が決定的に重要であると考えるためである。
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