本研究の目的は、(1)「難民」に関する国際法が何を「問題」とし、何を「解決」とするのかを、(2)戦間期における「難民」と「国民」それぞれをめぐる理論・実行の通時的展開と共時的相互連関を明らかにする作業を通じて、(3)国際社会の将来の協働を可能にする頑健な認識の形成に寄与する程度まで明らかにすることである。 最終年度である2021年度は、特に、(上記(2)の一部をなす)理論・実行の共時的相互連関を明らかにする作業に取り組んだ。その成果は、次のように要約できる。 すなわち、今日の「問題」は、移動する個人と移動しない国家との間の領域的・事実的関係に関するものとして認識されることが少なくなく、他方で「解決」とされるのは(避難国国籍への帰化や出身国国籍の再取得を含む)領域的・事実的関係を超える何かであって、それぞれの次元が対応していない。これらにつき、戦間期には、まず体制の変更・消滅から生じた無国籍者の人的・法的関係として「問題」が認識されており、しかし、領域内の法的一体性を重くみる立場から人的要素(nationalite)に対する領域的要素(domicile)の優越が強調されたために、領域国の「国民」に適用可能な法令を適用可能にする「解決」が図られていた。この過程で、いわば「civitas sine suffragio」の近代版として国際法文書に用いられ始めたのが、「難民」であった。これらの過程の詳細を個別具体的な事実に分け入って明らかにした。 他面で、そうした戦間期の認識は、遡及してみれば、一部の人びとを「二級市民」として扱う不正なものに映るはずである。この「不正」を正式に受け入れることを拒んでいるために、今日の「問題」の認識は、その「解決」との対応関係を喪失するかたちで歪められている可能性がある。このように考え、今後の課題を構想し、提示した。
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