本研究課題「武力紛争に至らない自衛権行使の時間的・事項的範囲」は、自衛権について規定する国連憲章第51条に定められた「武力攻撃」概念や自衛権に関する必要性・均衡性原則の分析を通じて、自衛権の講師としてなされる武力行使が必ずしも国際的武力紛争を発生させないことを明らかにし、武力紛争に至らない自衛権行使の時間的・事項的範囲を検討するものであった。 最終年度は、武力攻撃が単発であった実行と継続的であった実行とに分けて、前者について自衛権を行使した国や第三国は必ずしも武力攻撃国との間に国際的武力紛争が発生したとの法的認識をしていないことを国家実行を通じて分析した。特に1987~88年のイラン・イラク戦争中における米国によるイランに対する自衛権行使の事案においては、米国・イランともに米国は中立国であるとの認識が示されていることを確認した。 最終年度はまた、国連平和維持部隊が自衛原則の下で行う武力行使によって武力紛争当事者となるかについても検討を行った。これにより、既存の武力紛争において、武力紛争当事国ではない第三国(第三者)が紛争当事国に対して(継続的でない)武力を行使することによって、必ずしも、武力紛争当事者とならないことを明らかにした。 その結果、研究期間全体を通じて、単発の武力攻撃の場合と継続的な武力攻撃の場合とで、自衛権に関する必要性・均衡性原則の内容が異なり、前者では武力行使以外の手段が存在しないこと(事項的必要性)及び武力攻撃と反撃行為との間の均衡性(量的均衡性)が問われるのに対し、後者では武力攻撃と反撃行為との間の時間的近接性(時間的必要性)と自衛の目的と手段との間の均衡性(質的均衡性)が問われることを明らかにした。
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