2021年度はまず、国境を越えて行われる労働力取引において、労働者に法の下の平等を保障する役割を担うものとして、わが国の法適用通則法12条のあるべき解釈を探求した。具体的には、第一に、同条による労働契約準拠法決定にあたってのキー概念となる「労務提供地」につき、立法過程での議論や一部の学説の解釈とは異なる、広範な解釈の可能性と必要性を主張した。すなわち、とりわけ国際線の航空機の客室乗務員のように複数の法域にまたがって労務提供を行う場合に、もはや「労務提供地」は特定できないとする解釈に対して、同条が労働者の平等感情の保護にも資するべきとの立場から異論を唱えたものである。第二に、近年新しい働き方として注目されているプラットフォーム就労につき、同条がその労働者保護の機能を十分に果たし得るのかを検討した。前者については、専門誌に検討結果を論文として公表している(2021年6月)。後者についても、2022年5月に専門誌において論文が公表される予定である。 2021年度には加えて、オンラインで外国人研究者と学術交流を進めることで、自営的就労者の法的保護のあり方についての研究も行った。国境を越える労働力移動は、必ずしも雇用労働という形で現れるものではなく、自営的就労という形態によるものも考えられる。国際的に移動するそうした労働力の保護のあり方も、今後問われるであろう。そこでそもそも、各国における法的保護の現状を調査したものである。その際の外国人研究者による講演録の翻訳(解説付)を、2022年中に専門誌において公表予定である。 2018年度からの研究期間全体を通じてみると、総じて基礎的な研究にとどまるものが多かったものの、着実にその成果を論文の形で公表できた。国際的に移動する労働力に対する平等取扱いを保障するための、今後の法理の構築に、基礎資料として貢献し得る。
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