本研究は、競争法が消費者保護において果たす役割の解明・体系化を目的としており、その際、企業の戦略的行動におけるより具体的な文脈に即して、どのような消費者利益がどのような態様で侵害されうるのかを類型化し、競争法による介入の当否を問うことを目指している。 以上の研究目的の達成に向けて、令和2年度においては、第一に、令和元年度に検討した無料サービスに対する日本の景品表示法による規制のあり方に関する論文を公表した。第二に、事業者が欺瞞的な広告を通じて消費者の選択を歪める行為について、日本の先例並びに米国・FTC法の研究を行い、関連する論文を公表した。第三に、2018年度に研究を行った忠誠リベート(ロイヤルティースキーム)をめぐる問題について、デジタル化の進展によって、消費者保護・データ保護・競争の観点から新しい問題が出てきていることから、当該問題に関する日本法と豪州法の比較研究を行い、論文にまとめた(掲載決定。2021年度に公表予定)。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、以下のとおりである。第一に、SNS等の無料サービスに係る景表法上の問題について、日本の当局の現在の運用の問題点を指摘しつつ、望ましい規制のあり方を提言した。第二に、事業者が欺瞞的な広告を通じて消費者の選択を歪める行為について、デジタル化の進展によって複雑な問題が生じているところ、その問題点を整理しつつ、一定の方向性を提示した。第三に、ロイヤルティースキームをめぐって生じている消費者保護と競争法の交錯する新しい問題を紹介し、議論の道筋を提示した。
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