研究課題/領域番号 |
18K12655
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
竹川 俊也 北海道大学, 法学研究科, 特別研究員(PD) (40812194)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 刑法 / 責任能力 / 精神鑑定 / 自招性精神障害 / 原因において自由な行為 / 自招酩酊 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカおよびイギリス(イングランド・ウェールズ)刑法における自招酩酊に関する議論について、現地でのリサーチ等を通じて歴史的背景や理論的根拠を対象とした研究を行なうことにより、近時の実務で大きな問題となっている、自招性精神障害の刑事責任の判断枠組みを明らかにすることを目指すものである。 刑法39条は、行為者の責任能力が問題となる場合について、心神喪失者の不可罰と心神耗弱者の刑の減軽を定める。刑法上の責任能力は、犯罪行為時に備わっている必要があり、酩酊状態に乗じて犯罪に及ぶ意思でアルコールや薬物を摂取し、実際に責任能力を欠いた状態で犯罪を行った場合には、行為者に完全な責任を問えないことになる。この不都合を回避するために、学説では様々な理論構成が試みられてきた(いわゆる「原因において自由な行為」の理論)。 しかし、わが国の裁判実務では、犯罪に及ぶ意思を事前に有していたかを問わず、自招性の精神障害の場合には端的に刑法39条の適用が排除されている。つまり、行為者の精神障害が自ら招いたものである場合には、学説の理論構成を用いずとも、責任無能力とされる余地は残されていないのである。 こうした、自招性精神障害の場合に責任無能力の余地を排除する考え方は、英米法の領域で伝統的に採られてきたものであるが、犯罪論の多くの領域でドイツ法研究が優勢となっているわが国では、ほとんど研究がなされていない。本研究では、新しい領域であるアメリカ・イギリス刑法における自招酩酊と刑事責任の関係をめぐる議論を分析し、そこから得られた示唆を、わが国の責任能力論の解釈に正確に反映させるための研究を行なうものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,以下に述べる理由により,当初の予定通りに研究が進展していると評価できる。まず,北大刑事法研究会(2018年4月21日「自ら招いた精神障害の刑法的評価:「原因において自由な行為」論からの脱却と展望」)および早稲田大学刑事法学研究会(「自招性精神障害の刑法的評価」2018年5月12日)において遂行課題の経過を報告し,オーディエンスからのフィードバックを得ることができた。また,上記の問題意識の下で英米法圏の判例・学説に検討を加えた論稿「自招性精神障害の刑法的評価:『原因において自由な行為』論の再定位(1)(2・完)」を,北大法学論集69巻6号,70巻1号に投稿することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も,今年度に引き続き,アメリカ・イギリスにおける自招酩酊に関する論文を網羅的に調査、収集する。現地における先行研究は膨大であり、その歴史的経緯や具体的な立法過程をたどることにより、自招酩酊に対する現在の基本的な思考枠組みや各法域における問題意識を把握することを目標とする。また,外国法の分析によって得られた知見をもとに、わが国の解釈論レベルで自招性精神障害者の刑事責任を論じる場合、どのように理論的接合ができるのか,大まかに方向性を定める。
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