本研究は、検察官と被疑者・被告人との間で、捜査・訴追協力と引換に刑事処分上の恩典を与えることを合意する、いわゆる「司法取引」が適正に行われるために、両当事者間に存在する情報格差の問題に如何に対応すべきかを検討するものである。より具体的には、①情報格差がなぜ適正な取引を阻害するのかを問い、②その答えに応じた解決策として、司法取引における証拠開示の要否・範囲を具体的に明らかにしようとする。 本年度は、前年度まで調査を進めてきたアメリカ及びイギリスの法状況・議論状況を踏まえて、日本の合意制度における証拠開示の在り方や証拠開示以外の解決策を考察した。具体的には、検察官側と被疑者側の双方について、合意制度の利用場面における証拠開示の要否・時期・範囲を検討した。また、証拠開示の限界を踏まえて、①の問題に対応するための他の方策を検討した。例えば、証拠開示という当事者間における情報開示ではなく、裁判所が事後的に合意を審査することの有効性を検討した。また、情報格差の問題の一つとして、優位な地位にある検察官側によるブラフの危険が考えられるところ、合意制度の対象事件の限定や合意の事後的開示・吟味など合意制度全体の仕組みによって、どこまで当該危険に対応できるのかも検討した。 以上の検討により明らかとなった、証拠開示の限界や、裁判所による審査等の限界・有用性などは、今後、合意制度の対象を拡張するなど法改正を行う際に参考になると考えられる。
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